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第159話(sideアゼル)
『ん゙ん……闇、砕刃、乱舞』
気を取り直して演技をすることにした俺は、鰹節みたいな細かい闇の礫を作り出す。
それを等間隔に並べ、宙に浮かし、優雅な音楽とともにリボンのようにくるくると空中で踊らせた。
その隙に直径五センチ程の小型の魔法陣を五十個作り、空に飛ばし、観客の頭上にランダムに並べる。なぜか観客がざわめくが、見所はここじゃねぇぞ。魔法陣五十個なんてあくびと同じ難易度だろ?
魔法は全部、首の振りで指示。
照明魔法を極々小さくして、トコトコと歩く足跡に沿わせてまぶす。
俺の周りを舞う黒い結晶は美しく、足跡に照らされ角度ごとに光が変わる。
音楽が楽しげなテンポへ変化するとピョン、と飛翔して魔法陣の上に乗った。
ポンッ!ポンッ!
すると魔法陣は小さな破裂音を奏で火花を散らせ、俺の乗った跡が一瞬、明るくなる。クックク、罠の魔法陣をほんの少しの威力にしてんだぜ。
『闇……暗霧』
ポンポンと楽しげな音と闇の結晶がぶつかるシャラシャラとした音を連れ、客の頭上を跳ねながら、俺は真っ暗な霧を呼びそれを天井に撒き散らして歩いた。
シャラシャラ、ポンポン。
薄暗い場内に輝く黒の透き通った装飾。音響に合わせて広がる幻想的な空間。
高難易度魔法、と言われるものを惜しげもなく同時使用して作り出す世界は、我ながらなかなかのものだ。
俺が場内を跳ねながら一周する頃には、魔法陣は全てなくなり、代わりに闇そのものの霧が上部を埋め尽くしている。
そこへ闇の結晶を全て散らし、同時に唱えた。
『砕刃、砕けろ』
パキィィン
俺の足跡の照明魔法を吸収して光をまとっていた結晶が、細かい粒子のように弾けた。
それらが濃霧に浮かぶ姿は、まさに満天の星空。
『魔光』
最後にシャルとのデートが嬉しすぎた時以来使ってなかった解毒特化魔法、魔光を放つと、俺から立つ天に登る光の柱が濃霧を割った。
照明を纏う結晶とは違う輝きが後を追うように降り注ぐ。
架橋に差し掛かっていたクラシックな音楽がいい具合に終わり、俺は舞台から恭しく頭を下げて見せた。
「ウォン」
途端──ドッと湧く会場。
よし、これぞシュミレーション通りの拍手喝采……!
シャルがニコリと微笑みながら拍手を送るのが見え、俺は胸を躍らせ尻尾をブンブンと高速で振った。ノルマクリア!
ま、まぁ初めての奇術魔法にしては上出来じゃねぇか?
クックック!奇術だって魔王にかかればそこそこ出来るってわけだ。
『こ、これは素晴らしい!人型をとれない魔物とは思えない魔法の技術です!魔法陣と魔法、それも同時使用なんて、マオさんは特異種でしょうか!?』
『フフン、俺はただのマオだぜ』
機嫌がいい俺は尻尾をフリフリしつつ、司会の言葉に答えていく。
特異種じゃねぇよ、ノーマルな魔族だ。
ちょっと魔王とかやってるだけのな。
本当の事はナイショだが、こんなに褒められると気分がいい。普段魔王だから何でもできて当たり前って感じだからな。
すごいな、って褒めてくれるのはいつだってシャルだ。褒められるってのは気分がイイ。シャルが嬉しげに見つめてくるのも気分がイイ。
『マオさん!ではこの次の公演にも出ていただけるということで!?』
『まぁ、どうしてもと言うなら構わねぇよ。仕方ねぇから出てやる』
『おおっとありがとう御座います〜ッ!それでは次の部まで控室でお待ちください!』
司会の言葉に得意げになり、ウキウキとした足取りで舞台袖に引っ込んだ。
フッフッフ、まさかこの次の部まで出てくれなんて言われるとはな。
今まで無駄に鍛え上げてきた魔法技術が、役に立つ時代が来たぜ。
そんな浮かれワン子な俺は、そんなことをしていると今の部を見終わったシャル達を追いかけられないことを、すっかり失念していた。
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