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第160話
♢
全てのショーを見終わった俺は、感動を引きずりながらも、奇術館の外でリューオが出てくるのを待っていた。
いやぁ……すごかった。
特に最後の方のあの狼の奇術は、すごかった。
音と光のコントラストを、魔物が演出しているのだ。
それだけで素晴らしいのに、同時にいくつも魔法を使う技術。
俺はお捻りを奮発してしまった。
それほど感動モノなのだ。
思い返してまたしみじみと感動を胸に抱いていると、隣で一緒に待っていてくれたゼオが首を傾げる。
「お連れの人、来ませんね。もう次の公演が始まりますよ」
「うぅ……そうだな……どうしたんだろう」
ゼオの言葉に、俺は少し心配になった。
リューオに限ってなにかあったとは思えないが、もしもがある。
今の所人間がどうのこうのと言う話は聞かないけれど、オーガとしてなにかに巻き込まれているのかもしれない。
「……じゃ、お連れさん探しがてら、俺がそのデートの下見とやらに付き合いましょう」
「ん?」
あれ?
なんだか思いがけない事が……。
少しの焦りで悩む俺に、淡々と告げられた事が一瞬理解できず、聞き返した。
するとゼオは腕を組んで壁にもたれる。
そして相変わらずの無表情で俺を見つめ、はっきり繰り返す。
「俺が、アンタの用事に付き合うと言っている」
善意から言ってくれたのだろうはずのゼオの目は「同じことを何度も言わせるな、無駄だ」としっかり本音を語っていた。
それは俺としては、おすすめの場所とかを聞けるし嬉しいが……人間だとバレないようにするのが大変なのと、なによりゼオの一日を無駄にしてしまうんじゃないか?
申し訳ない気がして答えられずにいると、突然冷たい手が俺の手首を掴んで引っ張った。
「うおっ、ぜ、ゼオ……!」
「俺、腹減ったんで今からランチに行きます。眺めのいい店の屋上に席があるパスタが美味い店です。デート向きでしょう?」
「それはそうだが、」
ゼオは歩くのが速い。
懸命についていきながら耳を傾けると、どうやら腹ごなしがてら、デートにおすすめのお店を教えてやろうと言ってくれているみたいだ。
俺の返事を聞かないで、カツカツとジョッキーブーツみたいなデザインの靴を鳴らして進むゼオ。
彼の背中に、情けなくおろおろと視線をやる。
もう後ろの奇術館は、次の公演が始まったようだ。
リューオが出てくる気配はない。
カツン
「んぶ、」
突然俺の腕を引っ張っていたゼオが足を止め、俺とそう変わらない身長の灰色の後頭部に鼻をぶつける。
鼻を抑える俺を振り向いて、ゼオがズバッと言い捨てた。
「はぁ……貴方、一人じゃ街も歩けないでしょう」
「?……あぁ、なるほど──お前は優しいんだな」
「は?」
「ふふふ、ありがとう」
──直後。
競歩レベルの早歩きで引っ張られて、俺は言葉を間違ったのかと困惑しながらゼオの後ろを走った。
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