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第183話
なでていた手を掴まれ、手首にキスマークをつけられた。擽ったくて身をよじる。
歯型と鬱血痕が全身にあるが、まだ増やすのか。
そんな仕草が大人というより子犬のようでかわいらしい。
……子犬。
俺はふと首を傾げた。
「アゼルはそういえば、何歳なんだ?」
「あぁ?歳なんか昔は数えてねぇから、正確なのは知らないぜ。途中でそういう本を見つけて、四季や年月を数えたから……まぁだいたい百五十以上二百未満だな」
「俺の五倍か六倍か」
「大した差じゃねぇよ。寿命は魔族でも種類によるけどな」
目を丸くしてパチパチする。
年の差婚の極みみたいな年齢差だ。
けれどアゼルはまったく気にした様子もなく、どこか嬉しそうに昔の記憶を穿り返し始める。
興味を持たれて嬉しいのか。
アゼルの話によると、魔族は体の成長が赤子から小児までは人間より早い。
そこからはジワジワと成長し、一番精力的な姿でしばらく生きるらしい。
魔族はみんな強いので、外敵と長く戦うためにそうある。
そして寿命が尽き始めると、姿もまたゆっくり老いていくそうだ。
なので自分の見た目でおおまかな年齢を把握することができず、数え始めた時と昔の体感でそのくらい、と言うことだな。
「種類によるってのは、竜種はだいたい三百年、鬼種は人間と同じくらいから百五十年、アンデッド種は魔力尽きるまで。だが竜種でもワイバーンは五十年、ニベルヘッグやスカイコアトルは四百年。それもだいたいだし、個体差が激しいんだ」
「なるほど……難しいな、見た目で判断できないし、種類が違えば老人と若者でも老人のほうが年下だったりするのか」
「まぁな。例えばライゼンはあれでワドラーと同世代だ。不死鳥は特殊で、死んでもこの世のどこかの灰の中で生まれ変わる。魂以外別人だけどな。だから数が減らないし増えない」
「最強じゃないか」
「めちゃくちゃレアだぜ」
アゼルはドヤ顔で、ライゼンさんを引き合いに説明をしてくれた。自慢の腹心だから誇らしげだ。
不死鳥と言う名前でも死なないわけではないんだな。
でもそれはそうだ、この世界はゲームではない。
魔王がいて勇者がいてステータスなんてものもあるが、現実である。
そして魔王と勇者が結婚しているのだから、世界のシナリオライターもびっくりだろう。
アゼルの魔族教室をふむふむと感心して聞いていると、アゼルがニヤリと揶揄うような笑みを浮かべる。
「クックック、知ってたか?ユリスよりガドのほうが年下なんだよ」
「!?嘘だろう……!?」
そんなバカな。
俺はアゼルが街で突然現れた時よりも、今が今日一番驚いた。
思わず声を大きくすると、ニマーっと楽しそうにするアゼルは「本人に聞いてもいいぞ」と驚く顔にご満悦だ。
むむむ……いや、しかし確かにユリスはガドにタメ口だったな……空軍長官なのにな……信憑性高いぞ……。
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