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第184話

「昔話をしてやるよ」 バサッ 「うあっ」 軽くかぶっていた上掛けを大きく上げて、肩まで被せ直され、そのまま強く抱き寄せられる。 長い腕がするりと動いて、頭の下に潜り込んだ。 腕枕状態で項を撫でられたくましい胸板に額をすり寄せようとするが、角が邪魔で横になりながらだとなかなか難しい。 「ガドは今年の冬月三番で六十七歳だぜ、ユリスは確か九十ちょい」 「どっちも還暦越えじゃないか……!」 とんでもない話を聞いた俺はアゼルの腕の中で頭を抱えかけた。 今度から重いものは俺が代わりに持たなくては。 ちなみに冬月三番は現代で言う月の事だ。 三月である春月一番から始まり、春月二番、三番、夏月一番。 この世界は一年十二月で現代と同じだが、一年の始まりは三月で名前も違う。 「ガドは人間に盗まれかけた竜の卵から生まれたんだ。俺が取り返したから、弟みてぇに思ってる」 ガドは昔、卵時代に魔界に魔物討伐にきた人間の冒険者に親のヒュドルド、毒の竜を殺され、卵は高く売れるからと盗まれたそうだ。 魔界では弱い魔族は城で匿ったりもするが、魔物は基本的に乱獲されない限りは手出ししてない。 魔物は魔族も食べるし、その魔物の魔族が守ったりもするが基本城はノータッチ。 だが幼体や卵の生け捕りや盗みはだめだ。 向こうの戦力になると困る。 それに竜種は特に数が少なく、魔力スポットである魔王城付近に住み着き魔族は空軍に入ることが多いので、阻止しなければならない。 「ヒュドルドは竜種でも五本の指に入る強さを持っているが、その時の人間たちはそれなりに強いパーティだったからな。一匹のヒュドルドは淘汰された」 アゼルは「その人間たちを人間国に返して(・・・)卵を取り戻したのが俺だ」と、詳細を暈して懐かしそうに語る。 それから卵はライゼンさんによって、魔王城から少し北に行ったところにある沼地に住む、リンドブルムの一族に預けられた。 ガドはそこでしばらく育てられた。 どうやら彼は強い個体だった様でうまく馴染めず、本人の希望でお城に住むことになったそうだ。 当時アゼルは、自分が持ち帰った卵から生まれた竜と言うことで、それなりに気にかけていた。 けれど他者の、それも子供との接し方なんてわからない。 なので怖がらせないよう、たまに見に行くぐらいしかしなかったらしい。 意外だ。 今のガドとアゼルはすこぶる仲良しだが……どこで打ち解けたのだろうか。 首を傾げてそう尋ねると、アゼルは渋い顔をして頭が痛いように眉間にシワを寄せた。 「悪夢だぜ……アイツ、他のやつには触りもしねぇけど、気がついたら俺にだけはスキンシップ過多で……こちとら加減がわかんねぇのに、黙り込んでても勝手にウロチョロ……ッ!」 「そうか……アゼルの力加減が完璧なのは、手加減を覚えないといけないマイペース幼児がいたからか」 「まぁな。ガドが出世して空軍長官になるまではたまにしか会わなかったが、そのたまにが縦横無尽と言うか……けど、ライゼンは俺とガドを一緒に面倒見てくれたからな。それでなんとなく、弟みたいに思ってんだ」 アゼルは過去を思い出したのか呆れた目をしたが、そこには親愛の色があった。 ガドがアゼルを特別だから、と言っていたのはそういう関係だからだったんだな。 魔王に対して敬語でもなく親しげに接するのは、兄のように思っているのだろう。

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