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第189話

「──……ということで、アイツは別に俺の女でもなんでもねぇっつーか……やましいことはなにも、断じてねェんだ」  プルプル震えながらも弁明を終えたリューオ。  ここで初めて話を聞いた俺は状況を理解して、なるほどと頷いた。  実のところ、俺はお昼頃に昼食でも食べようかと部屋に戻ろうとしたら、涙目で鬼気迫る勢いのリューオに捕まっただけだったりする。 「俺だけだと扉を開けてくれねぇ……ッ!」と縋られ、気づいたらユリスの部屋を訪ねさせられていたので、よくわかっていなかったのだ。  話によると、昨日俺とはぐれていた間にユリス似の魔族を間違って壁ドンしてしまい、そのお詫びに買い物に付き合っていた。  そこを魔導具を買いにやって来たユリスに目撃され、怒らせてしまったということらしい。  あの負けん気の強いオラオラ系バーサーカーのリューオが、こんなにしょぼくれて風声鶴唳(ふうせいかくれい)としているとは……。  金髪ツンツンの猛虎が子猫同然の哀愁を醸し出している。  俺はどうにも可哀想になってきて、チラリと黙り込むユリスを伺った。 「それをなんで僕に言うんだろうね、そう思わない?」  ニッコリ。  その笑顔に、ゾクッ、と背筋に冷たいものが走り抜ける。駄目だ。お怒りでいらっしゃる。  ユリスは怒ると坦々としているのだ。  俺にスウェンマリナで物申した時もこうだったが、今回はそれに満面の笑顔が加算されて一層恐ろしい。 「その、好きな人に誤解されたくないだろう……?」 「誤解してたとしても、付き合ってもないのに僕が文句を言うのもおかしな話でしょ。例え、あんなに密着する必要性が微塵もない、とか、本当に嫌なら振り払えるんだから満更でもなかったくせに、なに言ってんだか、とか、そう思っていたとしても……ね?」 「う、うう……!」  俺を介して嫌味を言うのはやめてあげてほしい……!  直接言うよりダメージが大きくて、リューオが燃え尽きかけている。  リューオの目が頼むからがんばれ、と縋るような哀愁を漂わせているので、俺もどうしていいかわからないなりに頭をひねった。  だから修羅場のハウツー本を読んでおけばよかったのに俺よ……! 「話がそれだけならお帰りはあちらだよ」  すっと出入り口の扉を指差してずっと笑顔のままのユリスに、俺は黙ってリューオに向かってバッテンを作った。難攻不落だ。  だが必死で首を横に振られる。  諦められないみたいだ。  しかし昨日の今日で一晩経ってもほとぼりが冷めていないので、持久戦では勝ち目もない。  俺はうぅん、と悩んでから、ジェスチャーでリューオに外へ出るように伝えた。 『俺が、どうにか、聞いて見るから、一旦出てくれ』 『神よ』  拝まれた。  リューオはすごすごと背中を丸めてチラチラユリスを見ながらも、そっと部屋を出ていった。  うう……そのしょげ方、先に帰ってくれと言った時の俺の旦那さんを彷彿とさせるから、やめてくれ。  なんとかしてあげたさが突き抜けるじゃないか。

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