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第191話(sideユリス)
「僕の態度はおかしいって言うか、ふざけてるってわかってるんだけど、なんか、制御できないんだもん」
話しながら、シャルが空になった自分と僕のカップに新しい温かな紅茶を注ぐ。
グチャグチャの思考と自分の思い通りにならない感情に、僕は昨日から振り回されっぱなしだ。
いや、昨日からじゃないのかもしれない。
もっとずっと、前から、だったと思う。
まとまらない脳ミソを掻き回すこれを、誰かに聞いてもらいたかった。
でないと自分じゃなにを言いたいのか、どんな顔をすればいいのかわからない。
「……シャル、聞いてよ……。話すの下手だけど、僕ってお前みたいに素直じゃないから、自分の心がわかんない……」
シャルは相槌を打ちながら、黙って泣きそうな僕の話を聞いてくれる。
「僕ってかわいいでしょ?」
「とても」
「アイツは僕の可愛いところが好きなんだよ。言い換えると可愛いから好きになった」
自慢だけど、僕は割とモテる。
外見がこうなら、中身がこうでも、寧ろ許されるのかありのままの僕ってみんな結構好きみたい。
もちろん僕は見た目に磨きをかける努力をしてる。
アイツが可愛いと褒めそやす僕は、僕がそうあるために作り上げた当然の可愛さ。
ギシ。俯いた僕の隣りに、シャルが立ち上がって腰を下ろした。
近くに人の体温を感じて顔を上げると、先を促すように青みがかった黒い瞳がこっちをみつめる。
「……アイツの隣にいた女、僕に似てたのに、僕より可愛かった」
僕のキツイ吊目と違って、丸くて溶け落ちそうな目と、柔らかな体。
アイツは女のほうが好きだから、あっちのが好みだと思う。
「僕はいたい場所は勝ち取るし、いらない場所はすぐに捨てる。後悔しないよ」
「うん」
「僕はこの世の誰にも負ける気はなくて、その勝ち気とこの容姿でどんな場所ももぎとってやるって感じで生きてる」
「かっこいい」
「でしょ?」
「あぁ」
「……僕が拒絶した場所に自分じゃない人が選ばれて、あんなに息苦しくなったのは初めてだ」
卑怯でしょ。
こんな女々しくてグダついてはっきりしないことを考えるのって、ユーリセッツ・ケトマゴじゃない。
なにを言おうとしてたの僕は。
あの時。
〝僕が好きなら、迂闊に他のやつに軽々しく触られるな〟って?
〝僕の知らないお前なんて作るな、全部さらけ出して底抜けに愛しててよ〟って?
なにそれ、馬鹿じゃないの。
ふざけてるよ、僕って馬鹿、馬鹿。鬱陶しいじゃん。湿っぽいじゃん。馬鹿。
『今日も可愛いな』
うるさいよ馬鹿。
『今日も愛してるぜ』
黙りなよ馬鹿。
そういう言葉を思い出しちゃって、なにも言えなくなっちゃって。
「見た目が可愛いだけが好きだって、アイツにだけはそんなの嫌だ……だって僕より可愛い子、いるじゃない……僕をまるごと、好きになってよ……」
「…………」
「ねぇ好きだとかって、アイツはなんで簡単に言えるの? 僕ってアイツには素直に言えない、怒ってばっかり。それでいっぱい拒否したのに、今更〝よそ見しないで〟って言えないよ。だって始めは本当に興味なかったもん、もういっぱい傷つけたじゃん……」
「…………」
「アイツにだけ些細なことで怒っちゃうのってなに? 気に食わないんだ。僕の知ってるキラキラして楽しくて甘くて胸がキュンキュンする感情が、アイツにはちっとも沸かないよ」
「…………」
「アイツの仕事や本心、人間国での昔のこと、あの日街に降りる事も、僕は知らなくて、イライラする。なにも言わない癖にいつも好きって言ってキスするのが腹が立つ。僕の言うことなんでも聞いて、罵倒しても文句言わなくて、そういうのって本気じゃないみたいで悲しい。痛くて、悲しくて、イライラして、心臓がねじ切れそう」
「…………」
「……これが恋なわけない」
嘘。僕はアイツが、たぶんもう好き。
こんな些細なことで掻き乱されるなんて。
それなら恋って洗脳だよ。
毎日アイツに吹き込まれたから、細胞単位で好きになっちゃったじゃない。
ほんとにもう、大嫌い。
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