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第182話(sideユリス)

ポスン、と頭に手を置かれて、硬い手が優しく僕の頭を撫でる。 こういう時、頭がグチャグチャになったら、僕はシャルに会いたくなる。コイツのそばは心が凪いでいく。 恥ずかしくなるような本心を曝け出したり言葉にする事を、みっともなく思う気持ちが薄れる。 だからシャルを連れてアイツが来たとき、僕は部屋の中に入れたんだ。 「…アイツ、悪くないよ。僕がこんなグチャグチャの心が気持ち悪くて、八つ当たりしちゃうから、暫く会いたくないだけ。僕の物じゃないもの、アイツ。」 「ん…そうか。」 「ねぇ、アイツ成り行きであぁなったって言ってたよね。それは本当だと思う?」 「嘘かどうかは俺が決めることじゃないが…リューオはその場しのぎの言い訳を、態々部屋を訪ねてまでお前にしない。」 穏やかで優しい低めのローテンポな声が、僕を暖めるようになでながら紡がれると、少しずつ気持ちが落ち着いて焦燥感が薄らいでいく。 僕の魔王様への恋は、冷めた目の彼にこっちを見てほしい、孤高の存在に必死に求められてみたいっていう、下心と憧景の宝石だった。 あれはたしかに恋だったが、もっと楽しいばかりの甘いだけのモノ。 シャルはその時の僕の恋敵だったのに、誠実すぎて、愚直すぎて、一生懸命過ぎて、憎めなかった。 羨ましいな。 彼は、透明だ。 誰の色も変えずにそこにある。自分をさらけ出すことも厭わない。きっと暫く共に過ごせば、大多数の人が彼に好感を抱くだろう。 …こんなふうにやれないよ。 本心がわからない以上穿った僕は疑っちゃう。 拒絶されるかもしれない、素直になんてなれないよ。 ぎゅ、と黙ってシャルに抱きつく。 引き締まった体は硬くて柔らかくはないけれど、暖かくてどっしりとブレない。 シャルは驚いていたけど、静かに僕を抱きしめてくれた。コイツは拒絶しないって、確信できる。だってそういう男だから。 「アイツがお前ならよかった。わかりやすくてのん気でアホで、僕が尖る暇がないくらいならいいのに」 「アホ…でもそれじゃあきっと、リューオはユリスを好きにはならなかったぞ?」 「なんでよ。僕可愛いよ?」 「俺ならアゼルを選ぶからな」 至って真剣にそんなことを言われて、機嫌を損ねた僕は、胸元にグリグリと強く頭を押し付けてやった。 「そこは〝俺なら不安にさせないよ〟ぐらい言ってよ馬鹿。惚気てる場合?僕を慰めるのがお前の今の仕事。」 「ん…、でも俺はできる限りユリスを不安になんてさせないが、俺が恋をするのはアゼルだ。多分それは変わらないと思うな…」 神妙な顔で重ねられて、本気で考えた結果がそれなのかと呆れた上に笑ってしまう。 背中を擦る手が優しく、抱きしめる腕は力強く安心する。 「お前だから、あの誰も信じないで頑なに自分を閉ざしていた魔王様でも、上手く誰かと愛し合えてるんだろうだろうね」 例え話でも一途にただ一人だけを愛するシャルだからこそ、好意に同じだけの好意を返してくれるからこそ、好きだと言う事に臆病にならずにすむんだ。 好かれている事に奢らず、不安にさせないよう心を逐一口に出し、わがままや文句も受け止めてくれる。 僕や魔王様のようなつい減らず口を叩いてしまう素直になれないタイプには、ピッタリの緩衝材だろう。
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