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第196話(sideリューオ)

 うおお、これは名案すぎる。  俺は暴言を聞かなかったことにする代わりに、ピシッ! と魔王に指を立てた。 「魔王、お前が仮にシャルを好きじゃないとすンだろ?」 「それはねぇ」 「仮にだっつってんだろ張っ倒すぞ」 「んで仮にそうだとして、何回も振ってるけどシャルが毎日好きだって言ってきてるとする」 「いや、なんで俺はシャル振らなきゃなんねぇんだ」 「仮にだよいい加減にしろよ」 「そんなある日、お前はカクカク云々(しかじか)で人違いのシャルもどきの女と、菓子屋にいるところをばったり見られたんだ」 「まず俺はシャルを間違えねぇ。触る前に、近づけばすぐわかる。平均の咀嚼回数から髪の伸び具合も把握してるからな」 「それは流石にキメェしそもそもテメェは俺が来るまでシャル違いして恩人まるごと間違ってたじゃねぇか」 「うぁぁぁぁ……ッ!」  一向に話が進まなくてポロッと過去をほじくり返して言うと、魔王は両手で顔を覆い、俺と同じようにソファーへ倒れ込んだ。  なるほどな。ステータスの時といい、これ魔王のデリケートゾーンか。  あー……悪ィ、俺って口が滑りやすいんだわ。 「あれはぁぁぁ……初めはクリソツだったのと、浮かれハイテンション……! そして恩人は好感度カンスト……なのに、シャルが素で俺の好感度カンストさせたからぁぁぁぁ……!」 「中身が勘違いするレベルでツボだったのな。……俺は外見が似てたんだよッ……!」  うなだれる魔王と勇者がテーブルを挟んで、ソファーに寝転びあっているこの図。  世界平和ってこういうことじゃね?  何度殺し合っても同じ男、好きなあの子の挙動でこうなるとこは万国共通ってか。  あぁユリス……平和はここにある。俺はお前と和平交渉してぇ。  見ての通り俺は、気力がしぼみ過ぎて脳が萎縮していた。  ──数十分後。 「なぁ悪かったって。俺も慰めてやるからテメェも俺を慰めろよ」 「ぐ……どうしても……どうしてもって言うなら、仕方ねぇ……」  脳の萎縮した俺と撃沈した魔王じゃ、ユリスに機嫌を直してもらえない。  しばらくへこたれた後その結論に達した俺達は、不本意ながらお互いを慰めて復活することにした。  隣に座った魔王がシャルの慰め方を真似して俺の頭をなでてくる。 ので、俺はそれになにも言わず、魔王の頭をなでてやる。  ツッコミ? 無体なこと言うんじゃねぇよ。今は休業だバカヤロー。  なでこなでこと慰め合ってどうにか無になった俺たち。  元気になった魔王はまた腕と足を組んで、訝しく横目で俺を見た。 「んで? 仮にがどうしたって?」 「そう、仮にテメェがシャルのそんなとこ見ちまって怒って帰ったとしたら、どういう心境なんだ? 好きじゃねぇ男だぜ?」 「……………………」 「仮にな」 「わかってる」  いや仮にでも嫌なんじゃねぇか。  顔に〝シャルを好きじゃない自分なんて想像したくねぇ〟って書いてあるぞアホ。  なんだかよォ……同じツンデレでも、コイツの考えてることは多少わかるんだよなァ……。  ってかコイツはシャルが好きすぎる前提な上に、シャルの目の前でなければ惚気てくるから、かなりわかりやすい。  けどシャルは昔よりましだが、魔王のことはイマイチわからない時がそれなりにあるらしい。  俺はユリスの気持ちがそのくらいわかんねェ。  当事者になるとそうなンのか。シャルのこと、馬鹿にできねェわ。

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