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第202話

♢ 「んんと、好きなことを恥じることないと考えるんだ。前向きに諦めるといい。むしろ言いたいから言うんだ聞いてくれと押していけば、相手はトマト色になって黙るぞ」 「それは魔王様だからじゃない?前の恋人にはそれで押し通せたの?」 「俺がアゼルの前に付き合っていた彼女は一人だけだが……初めはトマト色になってくれていても、だんだん『一々ウザい、言葉選びが重い、安定しすぎてドキドキしない』って言われ、て…………た……」 「駄目じゃん、役に立たないよ」 ズゥンと闇を背負う俺の背中を、口はツンケンしつつも慰めるように擦ってくれるユリスに古傷を癒やされる。 ユリスがリューオに素直に謝るために、素直になるにはどうやって恥ずかしいのと怖いのをなくすのか、俺なりのアドバイスを求められていたのだ。 それで考えていたのだが、うっかり元カノとの悲しい別れが……うあぁ……。 前の彼女は、俺を初めて好きだと言ってくれた人なんだ。 俺はどうにも受難体質なのかあまり交友関係がよくなくて、家族もいない。 心の拠り所がなく孤独を感じていた。 だから当時は嬉しくて嬉しくて、女性の口説き方だとか女心とはだとか、そういう本を読んで勉強して、毎日たくさん愛を語った。 構ってあげられない分似合いそうなものがあれば逐一プレゼントをあげたり、社畜の貴重なたまの休みは行きたい場所へ連れて行ったりな。 仕事で連絡が返せないから纏まった時間にマメに返したり、辛い話や悲しい話も、役に立たないなりになるべく真剣に聞いた。 初めは照れたり喜んだりしてくれたんだが……。 俺はその……人付き合いが下手くそだからか、少し変わっているみたいで。 お、面白い話とかできないんだ……! それに説教臭くて、よく「大河と話してると親父と会話してる気分になる」って言われていてだな。 後輩達にもあれやってこれやってと、世話を焼かされていた。 それでだんだん俺がどういう人かわかってきたのか、彼女はそういう真面目すぎるところが面白くないと言っていたな。 サプライズとかが苦手だからいつも直球勝負なんだ。 まぁその、セックスも、いつも普通に。 女性相手だから、見栄をはっていたところもある。 好かれたいじゃなくて嫌われたくない、だったかな。 「あぁ……そうだった……俺は素直すぎてフラれたんだった……」 「ええぇ……僕ら、二人足して二で割ったほうがいいんじゃない?」 「そうだな……俺にも駆け引きで手玉に取るような、あえて冷たくするテクニックを教えてくれ……」 「あえてもなにも僕はしたくて冷たくしてるわけじゃないんだけど……!」 「一度くらい、猫になりたい。こんな満場一致の犬タイプな自分にマンネリ化されないよう変えてみたい」 「犬の何が不満なの」 「耳の話じゃないぞ」 犬耳のユリスはスン、と真顔になったから俺は真剣に否定した。 犬耳は偉大だ。俺は犬耳をつけるとアゼルに可愛いと言ってもらえることを知っている。

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