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第204話
リューオに引っ張られてここに至るまでの苦節二、三時間、長かった。
前向きに自分を変え始めたユリスだ、後はリューオを探してカンペ通りにすればきっとうまく行くはずだ。
「フフフ、まさか僕から謝ってデートを了承なんて、アイツも見直すんじゃない?見た目だけ最高に可愛い美少年だなんてもう言わせないよ!僕の沽券にかけて中身にも惚れさせてみせる!」
「うん、かっこいい、流石ユリス。中身も最高だぞ」
浮かれるユリスを本心から褒めちぎる俺を、ふとユリスはじっと見つめる。
「あぁ……ちょっと原因わかるかも。お前、たしかに素直過ぎていつでも感じた通りに賞賛するから、絶対的に安心しちゃうんだよね」
「うっ、だ、だめか……?」
「んーん。友達としてならとんでもなくいいやつだけど、恋人としてなら慢心しちゃうのかも」
「!なる、ほど……そうか……」
ユリスが素直すぎてフラレた意味を解きほぐしてくれて、俺は震えつつふむと納得した。
慢心か。
事実だからいくらでもしてくれて構わないんだが、その結果飽きられるのは悲しいな。
まぁアゼルはそんなことないという自信はある。
俺に好かれすぎて困るなんてこと、あいつはないだろう。
──コンコン。
そうしていると、突然部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「っだ、誰?」
「俺だ、魔王」
「えっ魔王様!?やだもう部屋片付けてないよおおおぉ〜〜っ!」
「それはどうでもいいから入るぞ」
うん?訪問者は旦那様のようだ。
キャーッと舞い上がってテーブルの上に新しいカップを用意し始めるユリス。
キョトンとしているうちにガチャ、と扉が開いていつもどおりのアゼルが入ってきた。
そして「はっ!」っとして俺を見つけ、一瞬背景に満開の花畑を背負う。顔は仏頂面のままだ。空気感だけで喜ぶなんて器用だな……かわいいな……。
「んっ、シャル。仕事終わったぜ、二日分だ。なぁ、早かったろ?」
いそいそとソファーに座る俺の隣に当たり前のように座るアゼルは、昨日でかけていた分の仕事も纏めて終わらせてきたらしい。
ユリスはアゼルの前に照れ照れと紅茶の入ったカップを置いて、向かい側に座る。
俺は隣にアゼルがいるのが馴染み深く、ホッとして、俺の反応を待っているアゼルの髪を優しくなでた。
「頑張ったんだな、凄い。お疲れ様」
「ま、まぁ、俺にかかればあのくらい余裕だぜ。お前と一緒にやるのが一番早ぇけど、俺にできないことはないからな」
「ん、だが無理をしてはイケないぞ。確かに二人で事務仕事を熟していた時は早く終わっていたから、一人で大変な時は頼ってくれ」
「むっ俺に大変な時はねぇ。……でも、そう言うのは、う、嬉しいぜ」
アゼルはゴニョゴニョと言いながら俺の肩口に頭を置き、スリスリと頬ずりをして甘えてきた。
髪をなでていた手を離して、喉奥で笑う。
「シャル、開幕イチャイチャ禁止」
「ハッ!」
しかしユリスのジト目に一瞬場所を忘れていたことに気がついて、気まずさを隠しきれず目をそらす俺である。
その、だってな、俺の旦那さんはかわいいんだ……!
俺はかわいがりたい性分なんだ……!
内心で言い訳をしてみたが、それを見越しているのかユリスは「独り身の目の前は自重して」と言葉を続けた。そしてアゼルに抗議しないのは贔屓だと思う。
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