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第205話

「魔王様はシャルを迎えにいらしたんですか?」 「いや、それもあるけどもう一つあんだ」 来訪の理由を尋ねられたアゼルは、名残惜しそうに肩口から頭を離して、難しい顔でユリスを見つめる。 ん?どうしたんだろうか。 特になにも聞いていないので、俺にもよくわからないぞ。 その原因がそこにあるのか、チラチラと扉を伺いつつ、アゼルはコホンと咳払いを一つして目的を話し始めた。 「ユリス、命令じゃなくまぁ頼み、なんだけどよ……」 「えぇっ!?僕に魔王様が!?そんなのなんでも聞いちゃうよ!?」 「そうか。そりゃよかった。じゃあ、バカ勇者がお前に伝えたいことがあるらしい。部屋に入れてやってもいいか?」 「はいっ!勿論どうぞ!……ハッ!」 愛する魔王様に初めて頼みごとをされて、反射的に是と答えたユリス。 その言葉の内容に気がついて口元を押さえるも、時すでに遅しだ。 言質を取ったアゼルはニヤリと悪い顔をしている。 ……なるほど、読めたぞ。 「来たのか」 「来た」 言葉の意味と内容を照らし合わせた結果を口にすると、予想通りの返事が返ってきて、俺はなんだか嬉しくなってニマニマと笑みを浮かべた。 やはりリューオはアゼルの執務室へ行っていたようだ。 おそらく追い出されたのがショックすぎて、好かれる秘訣を聞きにでも行ったのだろう。一目惚れから不動と降臨するアイドルだからな。 グッ 「おっと」 にやける俺にフフン、と鼻を鳴らしたアゼルは、グイッと腕を引いて俺を立ち上がらせ、扉まで連れて行き始める。 ユリスがうっかり許可してしまったから、リューオを迎え入れる気なのか。 ああ、意外とアゼルはこの二人の恋路を応援していたらしい。 ツンデレ魔王様は、いつもツンな顔をして、行動でデレる。 俺は腕を引かれつつも首を後ろに向けて、突然のチャンスに慌てているユリスへ「カンペ、ちゃんと言えてたから」と親指を立てた。 数多の修羅場を乗り越えてきた俺達のお墨付きだぞ? 説得力があるだろう。あればいいな。ああ俺もドキドキする。くすぐったい気分だ。 心配と期待と大いなる〝でもこの二人なら大丈夫だろう〟を微笑みに浮かべる俺に、アゼルはギュッと強く手を握り返して同意しながら、ガチャッと扉を開いた。 ガチャッ 「ふふん、許可取れたぜアホ勇者。男見せてこい。この俺が背中を蹴り飛ばしたんだからな」 「ま、マジかよッ!感謝するぜ魔お、……」 「…………」 「…………何も言うんじゃねェ」 「……あぁ」 が。 開いた扉のむこうに──王子様がいた。 何を言っているかわからないだろう。 しかし現実なのだ。 白の絹のシャツに、金の刺繍が細やかに施された臙脂のコートにベスト。 デザインを合わせた下履き、革のブーツ。アクセントが美しい高価そうな宝飾品。 いつもツンツンの黄金色の髪は後ろに柔らかく撫で付けられ、吊り上がった眉が整えられ穏やかさを無理矢理醸し出している。 ふわりと髪から香る桃の香りは、嗅いだ覚えのあるアゼルの桃の香油じゃないか。あの桃予算として組み込まれているアレだ。 いつも野性的で雄々しいリューオが、なんだかユリスの持つロマンス小説の王子様のような様相で真っ赤になって立っていた。

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