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第206話✽
いやはや、予想外すぎる。
「ロマンス小説なんて読んでて痒くなるぜ。王子なんかリアルだと気障野郎だろ」と言っていた本人が、まさかの王子様化。
おおお……しかし意外と似合うぞ……立ち姿もシャンとしている……。
隣でドヤ顔をしているアゼルから察するに、フル魔王プロデュースなのだろう。おそらく理論的にユリスの好みをそのまま反映させただけだ。
そんな王子様ルックを俺に見られたリューオは、げんなりと肩を落として、羞恥から頬を染めた。
「わかってる、似合ってねェよ俺にゃ……だがここまで縋るほど、俺は必死だぜシャルよォ……」
「いいや、確かに紛れもなく本気だとわかる……伝わってるとも、かっこいいぞ。ギャップ萌えというやつだ。なんだか気品があって、本物の王子様のようだな」
「…………」
「安定の肯定力の発揮をありがとよ……俺は逝くぜ……ッ!」
自分には似合っていないと思いつつも、ユリスは自分が軟派のように始めた恋だから、言葉に重みがないと感じるんだと、到ったリューオ。
いけ好かなく思っているアゼルに満を持してプロデュースを任せるくらい、リューオの本気は本気なのだ。
全力を尽くすべく、リューオは俺とアゼルの間をギクシャクと歩いて、火が出そうなほど恥ずかしい気持ちを押し殺し、部屋の中へ入っていく。
俺はそれを、不謹慎ながら微笑ましく思ってしまった。
だって些細なことで葛藤し、すれ違い、悩み、それでもやはり二人ともお互いのところへ戻ってくるしかない二人なんだぞ?
相手のことを脳が焦げ付くまで考えて、お互いが自ら歩み寄る結論を出した。
全力を尽くした結末は、きっとどうであれ尊いものである。
うん。この先は野暮だろう。
俺達の手助けなんていらないはずだ。
愛しい友人達に幸あれと祈りながら、パタン、と扉を閉めた。
廊下には、俺とアゼルだけが取り残される。
一件落着の一段落。それじゃあ俺は、通常業務に戻らなければ。
俺は俺で──他の男をかっこいいと褒めてしまった為に、嫉妬と不安に黙り込んでいる旦那さんを、一番は誰かわかるまでめいいっぱい愛さなければならないのである。
まったく、俺の目の前でしょげるなんて迂闊だぞ?アゼル。
複雑そうな顔で俺を見つめていたアゼルに、体ごと向きなおり、俺は大きく両腕を開く。
「俺の愛する王子様は誰か、この腕の中でたっぷりと聞きたくないか?」
「──っ!」
口元を緩めてそう言うと共に腕の中へ飛び込んでくるぬくもり。
ふふふ。さみしがり屋なアゼルを思いっきり抱きしめるのが、俺の通常業務なんだ。とっても素敵なお仕事だろう?
さて。
大事な友人達が一歩踏み出している間、俺は心が通じ合うことが尊いものだと、改めて愛を噛み締めておこうか。
扉の向こうから二人が揃って出てくるのを待ちながら、それを疑いもせずに、な?
後話 了
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