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第298話

 ──中央通路。  アゼルを思って火照った顔の熱を、深呼吸して冷ましていると、突然──ドゴオオォンッ! と地響きと破壊音が響き渡った。  そして間髪入れずに、武装した天使達が大移動している大きな通路を、噴火のような勢いで城の中心部から巨大な炎が襲いかかる。 「ぐああああああッ!」 「ひぃ……ッひぃ……ッ!」 「おッ落ち着けッ! 落ち着いて防御聖法をかけろッ! もうこの先で、戦闘は始まっているッ! 応援に向かうのだッ!」 「隊列を乱すなッ! 動けるものたち数人ずつで固まって、各個撃破しろぉッ!」  なんの予兆もなく放たれた強大な炎の攻撃により、通路いっぱいに整列して行動していた天使たちは余裕のない空間でひとたまりもない。  防御聖法が追いつかなかった天使は、程度は様々だが多数の死傷者を出している。  攻撃が内部であるこの通路に届くほど、中央で始まったらしい戦闘が激化しているようだ。  一人気配を消して物陰に潜んでいた俺は、運良く無傷で攻撃を逃れられ、額を流れる冷や汗をグッと拭う。  ──今のはなんだ、誰の攻撃かわからない。そしてさっきの破壊音は? いや、破壊音は今も鳴り響いている。  動き回っただけでも相当の広さがあるとわかる天界の城が、ズゥンッ、ズゥンッ、と不定期に揺れるのを感じながら、俺は素早く音の方向へ動き出した。 「加速、」  全身に強化魔法をかけるのを忘れず、足の裏に加速の陣を貼り付ける。  俺の出せる最高速度で天使の数が減って動きやすくなった通路を駆け抜けると、トンネル状の廊下を抜けた先の、上から下まで吹き抜けた大広間らしきところに出た。  そしてそこで空を飛び交う炎攻撃の犯人を見つけ、俺は愕然と立ち止まる。  ビュウウゥゥッドゴォンッ! 『オラオラオラオラァッ! 燃やされたいのはどいつだァッ!?』  ズドドドドドッ! 『アリオ~っ! 半分くらいしか当たってないよ~っ!?』  バチバチッバチッ! 『だぁッ! 的がちいせぇッ!!』  ゴオォォッ! 『あぁ~コイツ一時間後には魔力切れてんな……キリユ! その辺一帯にこの極大水塊落とすから、いい感じにバチバチしてくれ』  ドドドォォォッ! 『なあオルガっ! 俺のこと雷マシンかなんかだと思ってないっ!?』  バチバチバチッ……ドカアァンッッ!! 「あの信号機カラー……──空軍の竜か……ッ!」  広間上空にいたのはたくさんの空飛ぶ魔獣達と、一際殺気立っている竜達──いつも俺のお菓子を買ってくれる空軍の竜人三人組だった。  高温の炎を吐き出して舞い踊っているのは、真っ赤な竜・アリオ。  巨大な水の塊を渦巻かせ、それを容赦なく階下に落とす青い竜・オルガ。  アリオの落とした激流に向かって、落雷を落とす黄色い竜・キリユ。  地響きを起こすほど大きな声で「グオオオオォォォッ!」と吠える竜の言葉はまったく分からないが、それに負けず劣らずの勢いで空軍の軍魔が天使を屠っている。  城に乗り込んできた魔界軍は──戦闘を、仕掛けたようだ。 「っ、アゼル……っ!」  ハッと我に返った俺は、再び戦場の中心部へ向けて走り出した。  怒号と悲鳴のごった返す混沌の戦場をひたすらに進みながら、ぶつかり合う両軍にアゼル達三人の姿がないかを確認していく。  流石に敵の本拠地、数が違いすぎる。  竜やグリフォール、ガルダーンにサンダーバード等、どれもみんな強力だが一体につき二十人程の天使が囲んでいる。  更にここは空に浮かぶ国。  地上から魔力を集められないなら、保有する魔力だけで戦わなければならない。  つまり呼吸で言うと息を吸えない。吐くだけだ。  休息を取ると最大値までは自然回復するが、戦場で眠るわけにも行かない。  単体でなら勝率はたかくとも、こんな大規模戦闘はちょっと不利だぞ……! そうならないようにしたかったのに、そんなことわかっているはずなのに、どうしてだ……?

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