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第297話(sideアゼル)✽

 愉快に笑ったガドが大きく吠え、銀の竜が王座の間の天井を突き破った。  ドゴォンッ! と城中に響く騒音が開戦の合図。  城外の空軍はガドに従い、向かってくる天使を全て葬る。  俺と目を合わせたライゼンはなにも言わなくともわかっているとばかりに、貫木がかけられ封鎖されている王座の間の出入り口に向かい、扉に軽く蹴りを入れた。  ゴガアァンッ! 「シャルさんの捜索と雑魚の足止めは私に。宰相なんて、雑用係の最上位ですので」  ニコリと微笑んだライゼンの細い脚が放った蹴りは、貫木ごと扉を破壊する。  コイツは温厚だが、だからこそ魔界で一番怒らせてはいけない男だ。 「だから魔王様は、あのバケモノをお願いします」  去り際にライゼンが指したのは、この騒動の中で一度も表情を変えずにいた──天王。  自分だけは絶対の防御を固めていながら、部下が虫のように殺されていくのを笑顔で見つめている天界のバケモノ。  民主主義の天界において、コイツだけは違う。  天族全員使って遊ぶことだって、顔色変えずに笑顔でやる。  そのサイコ野郎が、おそらくこの世で唯一俺の全力で放った魔法を無傷で受けられる存在だろう。  アウェイのここでなら、負けるかも知れない。  だが負けたって死ぬだけだ。  もっと怖いことに比べれば、どうということはない。  天王は人懐こい笑みを浮かべ、剣を持って自分に歩み寄る魔王に、気さくに片手をあげた。 「やっと私を見たね、魔王。息子の杜撰な計画じゃあどうなることかと思っていたけれど、いい顔をしている。妃を迎えに行くためにそれを許さない私が邪魔だから、殺そうって、どうでもいいって顔」 「あぁ、メンリヴァーは殺すが、お前は勝手に死んでいろと思っている」 「ははは。冷たい。そう決着を急ぐのはやめたまえ。私は大事な情報を持っているんだから」 「それでもどの道同じだ。すぐに殺すか、口を割らせて殺すか」 「そうだとも。ナイルゴウンは、イイ性格をしている。私好みの、イカレた冷酷非道の香り。人間に心を貰った、獣の香りさ」 「そうか。なら心を奪われた獣がやることは、一つだろ」  コツ、コツ、と俺が大理石を踏む音が、悲鳴と怒声と瓦礫の崩れる中で嫌によく響く。  ゆっくりと歩いているだけの俺に誰も触れられない。  俺の頭の中は、俺の手の中にいないアイツのことだけが占めている。 「私を殺せば、人質の居場所を教えてあげる。──じゃ、殺ろうか」  ガキィンッ! ゴオッッ!! 「闇、永久深淵夜」 「サンクチュアリ・オブ・ディスペア」  視界を覆うべく一面に広がる闇と光。  ──お互いの最大攻撃がぶつかり合う瞬間、王と王の戦争が始まった。

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