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第301話
「っアゼル、ああ、本当に思い出したんだな……っ!?」
抱きついた勢いのまま、俺達は空中で二転三転、踊るように抱き合いくるくると緩やかに回る。
足場を作って飛んだ俺と違い、アゼルは足に魔法をかけているのか、互いの体温を確かめ合っても落下することはない。
だからしっかりとアゼルを抱きしめ、俺の知っているアゼルの体温を噛み締める。
「お、俺は、思い出した、帰ってきた……っ! ……っごめん、ごめんな、ごめんなシャル……っ! ずっと一人ぼっちで泣かせて、悪かった……っ!」
俺が存在の証明が欲しくて尋ねると、そんな答えが返ってきた。
いつも泣く時は、二人で抱き合っていた。なのに俺達は一人きりで泣いていて、心がスカスカに寒かったのだ。
それが今、狂おしいほど暖かい。
涙でぐちゃぐちゃの顔を俺の肩口に埋め、酷く震えながら、噛み締めるように強く、強く、俺を抱きしめるアゼル。
──ああ、俺のだ、俺のだ、俺のなんだ。
これが俺の、俺の死んでも諦められない人。
俺の愛する人。
駄目だ、嬉しくて涙腺と表情筋が緩んだまま戻ってこない。
言いたいことがたくさんある。
聞きたいことも、確かめたいことも、たくさんある。
溢れ出す涙を懸命に落ち着かせようとするアゼルと二人、くるくると回りながら、俺は濡れた笑顔で要領を得ない気持ちを言い募る。
「寂しかった。一人じゃもう寒くて仕方がなかった。平気だと思おうとした。一番辛いのはお前だから、俺は笑っていようと思った。でもダメだった。だって、俺はお前がこんなにも好きだ」
「ああ」
「なあ、俺はお前が忘れた間に、お前が俺を好きな気持ちよりずっとずっとたくさんお前を好きになった。……いや、違う。お前に愛されないと、こんなに苦しいくらい、お前を好きなんだと、気がついた。俺をこんな風にしたのは……お前だろう?」
「ああ」
「──アゼル」
名前を呼んで、お前が俺を見る。
たったそれだけのことがこんなに胸を打つなんて、思わなかった。
当たり前にあったものが、特別なものだと、気付かなかった。
足を止めて、アゼルに抱えられながら、俺はアゼルの頬に左手を添える。
「お前の背中を見ながら眠るのは、嫌だ」
「……ごめん、」
「違う」
「っお……俺も、嫌だ。お前とちゃんと、抱き合って眠りたい……」
「うん。……お前は、俺を愛さなくても幸せだと、言った」
「! い、嫌だ、嫌だ、嫌だ……っ! そんな生涯は嫌だ! そんなのが幸せなら、俺は不幸でいい……ッ! シャル、ずっと……っ!」
「……っ、……じゃ、あ、俺の我侭を、もう一度……聞いてくれないか……?」
アゼルの右腕に抱えられている俺は、背中に添えられている左腕を肩を引っ張り、たぐり寄せる。
うるんだ瞳で怯えたような顔をしているが、アゼルは抵抗しない。
勘違いしているのはわかったが、今から彼に酷いことを言う俺は、彼よりもずっと、怖がっていた。
手にとったアゼルの左手に、指輪がある。
俺とアゼルが生涯を共にする証の指輪だ。
──……記憶のないアゼルが、これを見つけて、そして自分からつけたのか。
ぎゅう、と喉元までせり上がってきた嗚咽を、どうにか堪えた。
アゼルの頬に添えた手を滑らせ、そこにある指輪を彼の唇に当てる。
俺は手繰り寄せた彼の左手にある指輪に、そっと、祈るようにキスをする。
「指輪、返したんだ。……お前を、幸せにしないと、格好悪いと思って」
「っ」
見栄を張ったことを告げると、アゼルは俺の手にある自分の左手を見つめ、痛ましく表情を歪めた。
すり替えたことに気づいていたのかはわからないが、すり替わっていたこととその理由には気がついたのだろう。
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