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第376話

 アゼルは旦那だというのに、ベッドで押し倒していて和めるなんて、薄情な男だ。 「おやすみのキスがほしいのか?」 「んん……ッ」  嘘だ、薄情なんかじゃない。  シャルは最高の男だ。  スマートに額にキスをして微笑み、身体を起こすシャルに、アゼルは手のひら返して認識を改めた。  そもそも脳内のポーズであってもシャルを貶してみせることが、そう長くできる程余裕があるわけなかった。  例え涎を垂らしてうたた寝していても、トキメキを抑えられない。  デコチューであっさり頬を染めたアゼルの上で、シャルは体重をかけないように気を使いながら座る。  彼はふとなにかを感じたのか、右手を自分の後ろへ回した。  そしてその手に触れられるモノ。  アゼルは浴室での時と同じように、再度悲鳴を上げ、そこを隠したくなった。 「こっちまで若返らなくてもいいだろう」 「ちっ縮むよりマシだろうがっ、だいたいベッドでキスなんかされたら反応するに決まってるだろ馬鹿シャルっ」 「おでこだぞ?」  シャルはとぼけた顔で感心したように嘆息するが、本気で無自覚なただの甘やかしだったのだろう。  そういう人だからこそ、アゼルはどれだけ日々を重ねても不意打ちをくらい、ドキドキさせられっぱなしだ。  しかしそう感心されても困る。  いっそ笑ってほしい。  そうすればじゃれ合いの延長でなし崩せる上に、笑顔を見れて一石二鳥だ。 「んんと、サイズは大丈夫だ。あまり変わらないと思う」 「ぅひぃっ」  下心を読み取ったのか、シャルは触れていたアゼルのモノを手で確認するように握り込み、指でなぞりだす。  アゼルは赤くなりだした頬を隠すように両手で顔を覆い、そっぽを向きながら、見た目が若くてももうちょっと意識してほしいと、内心で悶絶する。  自分じゃなくともどこの世界に男を握られ揉まれ、鎮められるヤツがいるんだ。  なのにこの野郎──全部素面で、純然たる好奇心だと……ッ!?  欲情するなと言うほうがおかしい。  そして実のところ魅惑の太ももで腰を挟まれているこの体勢も、非常に興奮する。  余談だが、アゼルはシャルの腰と太ももが特に気に入っているので、よく噛み付いている。  感度のいい胸元に目が行きがちだが、シャルイチオシパーツはこっちだ。  プロは目の付け所から違う。  悪気も下心もなくアゼルの上でのんびりしていたシャルは、自分を見つめる目がギラついていることにようやく気がついた。  首を傾げてからふむと頷き、口元に弧を描いて笑みを浮かべる。 「ふふ、特別子供が好きなわけじゃないぞ? お前だから甘やかしたいんじゃないか」  白い夜着のボタンを外しながら、まったく仕方ないなぁ、とばかりに甘い声でそう言われた。  念願叶った予感に仏頂面のアゼルだが、瞳だけは嬉々として輝き出す。  自分の夜着のボタンを、浮かれた指先で外し始めた。 「まぁ、わかればいいんだ。子供じゃなくて俺扱いなら、別に構わねぇ。ふふん」 「そうだな、お前扱いだ。お前以外の上に跨って、裸になったりしない。そんな予定はないからな」 「あぁ? アホっ、予定がなくてもあっても、だめだっ。幾らでも乗せてやるから、裸にならなくても俺以外の上に乗んな! それに乗る以外もだめだぜ? 頭なでんのも、甘やかすのも、ホントはだめだ。お前は俺のものだから、お前の手も俺のだ。でも我慢してやる、俺は心の広い魔王だからな」 「頭をなでるのは癖だからな、許してもらえるのは嬉しいぞ」 「フンッ、どうしてもお前にそうしてほしいって不埒な輩が現れたらなぁ、俺を倒してから行けばいい」 「んん、それは無駄な心配だ。俺に頭をなでられたい人がそうそういない」  シャルはそう言っておかしそうに笑うが、なでられたい人が自分の真下にいるとは、思っても見ない。  上衣をはだけさせるアゼルの上で、シャルはボタンを外した夜着をバサッと男らしく、一気に脱ぎ捨てる。 「さて、お兄さんといいことをしような」 「…………」  そして冗談めかしたその言葉に、まさか猛然と胸をトキメかせる不埒な輩も真下の男だとは、いつまでたっても気が付かないシャルであった。

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