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第377話※
♢
「あぅ……、っ」
月明かりの差し込む室内で、唸り声とも取れる、やや艶めいた鳴き声が響く。
声の主は、ベッドヘッドと枕を背に座る自分の上に跨り、一糸まとわぬ姿で狭く熱い体内に起立を埋め込もうと腰を落とすシャル。
──ではなく。
魅惑の腰つきで対面座位をキメられている、アゼル自身であった。
情けないだと? 笑うなら笑え。
言っておくがな、この色気たっぷり番長さんは、自分から乗りかかりリードすることに、なんの躊躇もないからな。
アゼルは脳内で、誰にかもわからない言い訳をする。
えっちなお兄さんに乗られいいことをされているなんて、宛らマルガンに借りた桃色雑誌の読者体験談のようだ。
「んン、ぅ、」
薄く瞳を閉じて肉壁を押し広げられる感覚を感じながらも、着実に根本までを呑み込んだシャルが、色っぽく息を吐いた。
同じく衣服を脱ぎ去っているアゼルの腰に、ペタリとシャルの湿った温かい肌が張り付く。もち肌だ。
こっそり腰に抱きつきながら、尻をなでた。
自分から奥へ誘い込む姿もたまらないが、もう動きたい。
「はっ、シャル……、」
今のアゼルでは自分にまたがり座るシャルを見ようとすると、いつもより上を見なければならず、自然と強請るような上目遣いになった。
シャルは汗の滲む額に張り付いていた前髪をかきあげ、名前を呼ぶアゼルを見下ろし、暖かく微笑む。
「優しくするから、キツかったら言ってくれ」
「ぐぬぬ……!」
この野郎。
現在進行系で抱かれているくせに、無駄にかっこよすぎる。
自分の嫁が包容力マックスなのは知っていたが、髪をかきあげ色っぽく笑いながらそんなことを言われると、敗北を感じてしまった。
「だから、俺を年下扱いすんなって言ったろうがっ」
「あっ、ぅ、ン……っ、なにを言っているんだ、していないだろう? 大人だもんな、よしよし」
「シャルお前、今の自分を振り返ってみろ? オイ」
「? ん、ふっ」
「っ」
負けず嫌いの虫が騒いだので、腹筋に擦り付けられるシャルのモノを擦りながら、胸元を指先で弄る。
するとシャルは快感に身体を震わせながらも、微笑ましそうに頭をなでた。だからそれだ。
よくわかっていないシャルは、咥えていた起立をキュゥ、と内部を締めて刺激してくる。
アゼルがそれに息を詰めれば、また髪を軽くなでて膝と腰を動かし、ローテンポな抽挿を始めた。
それも勉強熱心なシャルなので、官能を煽るのが酷くうまい。
どう締め付け、時に円を描き、短く早く揺らしたり、抜けそうなほど引き抜いて一息に体重をかけたりすればアゼルがイイのか、よくわかっている。
熱く湿った肉襞が奥へと誘い込むように蠕動し、潤滑油と腸液が混ざったヌメリで、ヌチャ、と音が鳴った。
「あ、っ、ぁ、」
そうして奉仕しながらも、薄く開いた唇から控えめに嬌声が漏れる。
二人の身体の間で擦れるシャルの肉棒も、丸みを帯びた先端から蜜を滲ませ、良さそうに勃ち上がっていた。
「はっ……ぁっ…ぁっ…、あ、ぁ……」
愛する人が自分にまたがり、濡れた勃起を擦り付けながら快感に更ける様は、どうしたって淫猥だ。
アゼルの衝動がウズウズと煽られて、仕方がない。
自己犠牲精神が激しいシャルの献身癖と同じく、己の全てを捧げて相手よりも愛したいのだ。
なのにシャルは見た目の若くなったアゼルに対して甘やかしモードに入っていて、一向に好きにさせてくれない。
抗いがたい甘やかしだというのが大半の原因だが、ままならない欲望があった。
シャルが動くので思うように触れず、自分が仕込んだせいで的確に蠢く中の襞に、アゼルは高められていく。
「シャル……っ、俺にも、触らせろっ」
「んぁ、あ、? あぁ、お前は俺を感じていてくれ、んっ、ん」
そう言って、伸ばしたアゼルの手を取って指を口に含みながらシャルは、中で質量を増す肉棒を貪ることに夢中になる。
アゼルは自分の指を温かい舌で舐められ、シャルの胸元に額を押し付けて「うぅぅ〜っ」と唸った。
頗る気持ちがいいのがより悔しい。
自分は今、尻で抱かれているのでは?
そんな錯覚を起こしたくらいだ。
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