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第390話(sideアゼル)
タローの猛攻から抜け出して、風邪疑惑の話を聞く。
どうやらシャワーを浴びさせてもらった時に、ちゃんと水気を拭かないと風邪を引いてしまうと教えられたらしい。
俺の頬を揉んでいたのは、頭に手が届かないからだ。
タローとしては、シャルの真似をしてタオルで拭いているつもりだったということ。
タオルがまずねぇぞ。
「……ぐるるる……」
あぁクソ、よくわかんねぇな行動が。
子供ってこんなに子供だったか。
ガドはしばらく竜の村に預けられててもう少し育ってから来たから、生まれたてには会ってない。
アイツはもっと「魔王〜登るぜ〜」とか言って第四形態の俺を登って遊んでいた。
動いたら殺すかと思って冷や汗かいたぜ。
シャルの教育とは言え、心配されるのは悪くない。
実際風邪をひいていたらかっこわるいので心配されたくねぇけど、そうじゃないならなんとなく嬉しい。
しかしなんだか、絆されてきている気がする。それは悔しい。
「おいタロー、お前卵の時に俺が言ったこと覚えてるか?」
『たまごのとき?』
「そうだぜ。シャルに一番愛される仕事は俺のもので、シャルに抱きしめられるポジションも俺のものだ。そう言った。それは今も有効だ。シャルは俺のものだから、ペットの筈が人型だったから成り行きで俺達の娘になったからって、俺はお前に一番を譲る気はねぇ」
『?? まおちゃん、わかんない……』
「グルル……、つまり、俺はシャルが世界で一番大好きだ! 世界というのはタローの見えてるところと、見えてないところを足した全部だ! わかったか?」
『おぉ〜! わかったよ!』
俺が拳を握って真剣に宣戦布告を言い聞かせると、タローは俺と同じように拳を握って、コクコクと頷いた。
ふふん。
流石シャルの育てた卵、素直だぜ。
素直でわかりやすいやつはイイ。
機嫌よく鼻を鳴らす。
シャルは〝可愛がること〟が好きだから、可愛いものが好きだ。
動物も子供も、特別好きじゃないとは言っていたがかなり弱い。
ユリスもよく頭をなでられている。
俺のこともすぐ可愛いと言うが、できれば格好いいと思われてぇ。
でも、可愛いも格好いいも、シャルが褒める言葉の対象でナンバーワンは俺じゃないと駄目だ。そう決まってるんだよ。
その素直で可愛げのある性格と、動物と言う鳥の翼。
そして自分の世話した卵から生まれた子供。
──トリプル役満で俺のシャルを誑かしたのは、まだ根に持ってるからな……!
デレデレのシャルを思い出して、歯の奥がギリギリと軋む。
俺の嫉妬心はなんにでも湧きあがるんだよ。
なんてったって俺だ。
物分りのいいタローに一番の座は守られたと、ドヤ顔を晒す。
頷いていたタローは、俺のドヤ顔ににこにこと笑顔で返した。
『私もしゃるとまおちゃん、だいすき〜! にへへへ、いつも外でしゃるの声、まおちゃんのはなししてたよ。だから私、はやくあいたいって、してた!』
「超光属性の英才教育じゃねぇか」
──あぁ……シャル。
タローが俺のような性格になって俺二号に成長したらどうすると言っていたが、それより先にシャル二号が出来上がってるぞ。
英才教育すぎて眩しいぜ。
そうだよな。
俺だって存在も顔も知らない親より、親と言えばライゼンだ。
黙ってオレンジジュースのおかわりをいれてやりながら、生みの親より育ての親を実感しているのだった。
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