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第402話
タローは自分のせいでリューオが怒られているのかと、拙い人語で聞いてきた。
しかし俺は頭をなでてやりながら、子供用スプーンを持たせ食事を再開させる。
すぐににこにこするタロー。
ユリスもなでれば、機嫌を直してくれるだろうか……。
するとそんな小声のやり取りを耳ざとく聞いていたユリスは、俺の前にワインのボトルを二本ドドンッ! と置いた。
そして〝お前はこっちの味方でしょうが〟とでも言いたげにキツく睨みつける。
機嫌の悪いユリスは暴君だ。
「シャル! お前お酒弱くないよね? その鈍感あんぽんたんに助け舟出してるヒマがあるなら、僕に付き合って!」
「わかった。わかったからパスタのパセリを俺の皿にひたすら乗せるのはやめてくれ。タローが真似をして、豆を鬼盛りにしてくるんだ……!」
「んまめ! しゃぅぅ~どっぞ!」
「あああ溢れんぞシャルッ! おいタロー、ガオガオがお豆さん大好きだからあーんして! あーん!」
「あ~? ぴぃ……がお、あ~し、てっ!」
「シャル」
「あぁ。もちろん付き合う。久しぶりに飲みたかったんだ」
ユリス、パセリが苦手だったのか。
いやそれよりも覚えたてのスプーンをうまく使って俺にプレゼントをしているらしいタローの豆責めを、リューオが身を呈してストップさせてくれた。
しかしそれは悪手だ。
ユリスは突然のあーんに、笑顔で俺の名前を呼ぶ。
俺は恐ろしすぎて、真顔でワイン一本を一気に半分ほど飲み干してしまった。
俺の職は昼までにお菓子を完成させればいいだけの、時間の都合が効く仕事だ。
酔いつぶれても多少余裕があるので問題ないが、キャパシティを超えると記憶がな……。
まあ魔界では俺より先に酔いつぶれるアゼルの世話と、やたら陽気になる明るくて人懐こい酔い方のリューオの世話をするので、潰れたことがないから大丈夫か。
ちなみにユリスは、ザルを通り越してワクだ。
蟒蛇なのでちっとも酔わない。
無限にやけ酒ができてしまう。
──これは俺がユリスより多く飲んで、なんとか止めなければ……!
豆をこぼすタローの食事を助けながら、ユリスの機嫌回復に努める。
更にリューオに幼女趣味じゃない旨を伝えて来いとせっついて、俺は懸命にワインの消費に務めるのだった。
──半刻後。
俺は普段、自分の許容範囲以上飲まない。
しかしリューオが和平交渉をしている間にユリスから酒瓶を奪うため、だいたい三本を空けた頃。
「──ってことで、どんなに他をかわいがっていようが、お前が一番好きで愛してるに決まってんだ! 気がつかなくて、ちょっと構いすぎたのは謝るけどよォ……毎日恋してんのはお前だけだ! ダチの娘に手を出すわけねェが、嫉妬するユリスはますます最高だったぜ!」
「ううぅぅぅ……バカじゃん! 恥ずかしいことこんなところで言わないでよっ! ……で、でも、まあ、僕もすねて、ごめん。ふんっ」
「ユリスぅぅぅぅ……っ!」
「ああもうここでは抱きつかないで!」
ぼんやりした視界の中で、ずっと言い合いをしていた二人がいつもどおりのイチャイチャ夫婦漫才を繰り広げ出した。
ようやく丸く収まり、一安心だ。
俺はタローが最後の一口のハンバーグと戦っているのを、ほわほわした気持ちで見守る。
二人が仲直りして良かったなあ。
俺は二人とも大好きだし、かわいらしいと思う。かわいいなあ。
ユリスに抱きついて押しのけられたリューオが、にやにやしながら隣の席に戻ってくる。
それをぼう、と見つめてほわほわと「おかえり」と言った。
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