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第405話
流石に何度も好きな人をかわいがることを阻止されて、俺は怒り心頭だ。
テーブルのワインボトルを手に取り、残りを一気に飲み干してから、ふくれっ面ですねてみせる。
「りゅーおもゆりすも、おれのちゅーをいやがるのに、なんでたろーをとるんだ。ひどい。でもすきだよ? ふたりもだいすき。だから……ね? なかなおりしよう、おれとちゅー」
「うん。全面的に今回は僕が悪かったんだけど、これ以上お前の言う仲直りしたらお前の旦那様との仲壊滅して、修復不可能になるからッ!!」
「んん……あぜる、こあくない。だいじょうぶだ、ないしょにする」
「いやテメェには一切傷つけねぇだろうが、こっちは当たり前にミンチになる可能性予知してんだけどッ!? 後刺し違えてでもユリスの唇は渡さねェしッ!」
「こまる、やだ」
「困るのこっちでやだもこっちィッ!」
しかしタローの塊を抱きしめて叫ぶユリスと、そんなユリスを守るように立つリューオが、それを許さない。
グルグルと唸り声をあげて、とんでもないバカを見る目で睨みつけてくるから、仲直り作戦は失敗してしまった。
どうやら俺とキスするとアゼルが怒るので怖いようだが、そんなことないんだ。
アゼルは怒ったりしない。
なんてったってアゼルだからな。
俺のアゼルだ。
俺のアゼルはイイコなんだ。
それよりも、今怒っているのは俺なのにどうして三人に距離を取られないといけない。
仲間はずれなんて許せないぞ。
もう俺の拗ねメーターは限界だ。
誰かをかわいがらないと、収まりがつかない。
悩み悩んで、譲歩案を掲げる。
「んょし。おれがゆりすになかなおりのちゅーをしているあいだ、りゅーおはあぜるとちゅーしてもいい。あんしんして、あぜるはとってもきすがうまい」
「なに一つ安心できねぇし罰ゲームに罰ゲーム重ねたどうしようもないコレジャナイ感が否めねぇだろうがこンの酔っぱらいトンチキ男ォォォォオッッ!」
にっちもさっちも行かない現状を打破する俺の名案に、リューオが絶叫した。
──ガチャ。
「ヤッホー、俺だぜェ」
が──バルコニーに続く窓を開く音とともに聞き覚えのある呑気な声が聞こえたのは、ほぼ同時である。
この部屋にいる者がブランケット巻きのタローを除いて、一斉にバッ! と窓を振り返った。
「んで? 誰が酔っぱらいトンチキ男なんだ? シンユウシャァ〜」
「ってなに当たり前のように窓から入ってきてんだ銀トカゲッ!?」
そこにいたのは予想通り。
毎度おなじみ窓侵入者の、ガードヴァイン空軍長官殿だ。
知ってた。
窓から入ってくるのはガドの日常動作だからな。
シリアスシーンでもなきゃ、ドアからなんて入ってこない。
近付けば唇を奪う気満々の俺を説得する緊迫した状況に、突如現れた魔界最年少長官。
魔王城のツッコミを一手に引き受けるリューオは、タローを抱きしめて守るぐらいしか気力のないユリスに耳打ちをする。
聞こえるのは「なぁ、アイツに押し付けてタロー抱えて逃げようぜ」と職務放棄を申し出だった。
だめだ。
まだ俺と仲直りのキスをしていない。
ちなみにシンユウシャと言うのは、リューオのことだ。
何度かいろんな呼び方をしていたが、最終的にそれに落ち着いた。
イントネーションはシン・ゴジラやジンオウガと同じで頼む。
そして銀トカゲと言うのはガドのことだ。
ん? これは説明いらない?
そんなことない。
ガドはどこからどう見ても立派なアゼルの弟分で、俺の義弟だろう?
説明しないと初めて聞いた人は「銀トカゲって誰だろう? ガドさんは魔王様の弟分だし、シャルさんの義弟だし、あれれ〜おかしいぞ〜」となること間違いないのだ。
魔王の妃である俺としては、魔王城の住民に混乱をもたらしてはいけないからな。
俺はちゃんと真実をお伝えするぞ。
真犯人は元太くんだ。
そして俺は別に酔っ払ってなんかない。
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