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第409話

 ──翌日。 『おはようタロー、どうしてお泊……』 『ぴぃ〜はよ! しゃう、まおちゃ、め。わたしまおちゃにゆったら、ゆんちゃ、おしろなくなる、いってたよ?』 『ん?』 『あぁおはようユリス、昨日の……』 『うんそれは僕が悪かったからもう仲直りはいらないよ! それじゃあッ!』 『は?』 『お、おはようリューオ。今から仕事……』 『仕事だ忙しいメチャクチャ忙しいッ! 俺は魔王と罰ゲームなんかしねェからなッ!?』 『え?』 「──いったい昨日、あれからなにがあったんだ……?」  朝からなぜか昨日一緒に過ごしていた三人に、それぞれ口をつぐまれ逃げ出された俺は、神妙に腕を組んで首を傾げる。  昨日──確かユリスがやけ酒する前に、急いでワインを消費したことは覚えているんだが……。  頭がぐらついて意識が落ちてからの記憶が、物の見事にないのだ。  ふーむ。  順を追って解明しよう。  まず意識が回復してからの出来事を、整理がてら回想してみようか。  俺が目が覚めた時は夕暮れ時で、オレンジ色に染まるベッドに寝かされていてな。  どうしてこうなったのかはわからないが、唇が包帯でぐるぐる巻きにされていたんだ。  更に言えば全身夥しいキスマークの嵐で、ほぼ裸同然の体たらく。  そしてそんな俺の腹にしがみついて微動だにしない、アゼルの姿がある。  寝ていると思ったが起きていた。  起きていたのに動かなかった。  体の中に違和感がないので致してないとわかったが、余計に謎だ。  たまにあるんだが、アゼルがまた勘違い暴走して俺を昏倒させたのかと思ったのに。  どうして抱かずに痕だけつけまくったのかも、よくわからない。  俺はアゼルにどういうことか聞いたんだが、上げた顔の酷い有様に目を剥いた。  目も鼻も頬も真っ赤で、尚且つ酔ってもないのに素直モードだったのだ。  幼児モードとも言える。  アゼル曰く、ワインで酔った俺は散々アゼルにわがまま放題やりたい放題して、挙句寝落ちしたらしい。  睡眠姦は我慢したと言っていた。  そうしたいくらい、寂しくなったらしい。  しかしそれでは惨状の理由にならないので、なぜ泣いているんだと聞いたが、頑なに答えてくれなかったのだ。  むしろなにが悲しいんだと言えば、余計にダバーッと泣き出すので、聞けなかった。  このモードのアゼル、ツンする気力がないからなんでも思ったとおりに答えてくれるはずなんだが……。  どれほどダメージの大きな出来事があったのだろうか。  うぅ、俺はなにか、やらかしたのかもしれないぞ。  それから夕飯の時間になり、マルオがタローはユリスと一緒にリューオの部屋に泊まりに行ったと伝言をしてくれたので、久しぶりに二人で過ごした。  夫夫水入らず。穏やかな時間である。  けれど、ここからがさらなる異常事態だ。  心して聞いてくれ。  タローが来てから概ね禁欲中のアゼルのことだから、浮かれているのではと思ったのに、だ。  まさかの──手を出されなかったんだ。  ……そんなことがあるのか?  自意識過剰じゃないぞ。だってアゼルだ。  これには流石の俺も、アゼルが離してくれるまで背中にひっつけて、食事や風呂をこなしている場合じゃなくなってしまう。  泣きやんでも潤んだ目のまましがみついているから、そのまま生活したんだが。  もしかして病気になったのかと熱を測ったり、喉を見てみたり、俺はとても焦った。  当のアゼルは時たま独り言をつぶやくだけで、俺の言葉には特定の返事しかしなくなったので、宛にならない。  独り言は「やっぱり竜装備習得する」やら「かわいいは作れる」やら「怒りより愛想を尽かされたかと思って絶望した」やらだ。  余計わけがわからない。 『アゼル、どうした? ご飯を食べなかったし、お腹が痛いのか? タローがいなくて寂しいのか? まさかお前、呪われたのか?』  心配極まった俺がベッドの上でじっと見つめながら聞いても、この通り。 『おれとはもうしない……おれとはもう……おれだけしない……ぐすん』  なんて、これしか言わないんだ。  言いながらやっぱり泣きだしてしまうものだから、聞き出すのは断念して、慰めることに徹した。  こんなにアゼルをひたすら慰めたのは、記憶喪失事件以来だぞ。  そして「俺が一番かわいくて好きだって言え」と頼まれたのも初めてだった。  ──かわいいと言ったらかっこいいんだと怒るアゼルが、かわいいを求めるなんて……!  波乱の一夜この上ない。

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