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第410話
そうして波乱の一夜を乗り切った今日なんだが──話は、冒頭に戻るのだ。
あからさまに避けられてしまったし、タローもユリスに連れて行かれてしまったんだ。
どうしたものかと悩ましい。
俺はことの次第をアゼルの執務室に報告書を持ってきた男──ガドに説明して、意見を求めた。
いつでもまず初めに自分を頼れと再三言われていたので、頼らせてもらおう。
ちなみにアゼルを除いて初めにガドを頼らなければ、まとわりついて拗ねる。
こういうところもアゼルに似ている義弟だ。
「クックック。頼れと確かに言ってるぜィ。むしろ言われなくとも勝手にやる俺だけどなァ? ま、今回ばっかりは意見を言うことはできねェぜ〜。ユリス達に聞くところ、シャルにゃーは酒癖が悪すぎんだ」
しかし今日のガドは頼られたことに嬉しげに声を弾ませたが、アゼルの心情を教えてはくれなかった。
ユリスに話を聞いたみたいで、なぜか俺の酒癖の話をする。
どうやらアゼルにわがまま放題したと聞いたので、呆れられているのかもしれないな。
「うん、アゼルにわがまま放題したんだったか……それを見られていたんだな。俺はキャパシティを超えると、記憶がなくなってしまう。因みににゃーじゃないぞ」
「ワンかァ……」
「ワンでもないぞ」
人間なのでニンニンだ。
……なんか違うな。シャル助なりになってしまう。
とにかく納得したので記憶がないと言うと、それでもガドはノーコメントだった。
んん……表情からガドの言いたいことを読み取りたいが、今日ばっかりは読み取れない。
理由は、ガドがいつかの∵ 仮面をつけているからだ。
魔界で流行っているのか?
魔族のセンスはよくわからないな。
その仮面はもちろん、謎の遊びをしていた時にアゼルが使っていた仮面である。
ちなみに現在。
渦中のアゼルは俺を膝に乗せて無言で抱きしめながら、魔法を駆使して書類仕事を熟していたりする。
そうとも。
俺は冒頭からアゼルに座りながら、本人の前で昨夜の暴挙を説明していたんだ。
いや……困ったことにアゼル、慰めたので泣き言は言わなくなったが、朝になってもちっとも喋らない。
それどころか、夜寝ていたのかすら怪しいぐらいだぞ。
おはようのキスをすると朝日を拝み始めたが。キスはいつもしているから、感動することはないはず。
それからは一応、悲しんではいないみたいだが……なにかが発動してしまった模様な。
俺が離れると黙って鎌を巻きつけて引き寄せ、常にそばに置こうとするので、やむなく仕事についてきている。
怒るにしても拗ねるにしてもしょぼくれるにしても、いつもとは違う様子は、なんとも言えない物悲しさがあった。
仕方なく、俺は満足行くまで好きにされることにしたわけだ。
こんなに目を離したがらないなんて、最初期から絵画事件以来だな。
頼れるフレンドに相談してもこの不思議な状況が解決しなくて、ふぅ、と息を吐く。
俺の旦那さんは、毎日いても飽きないくらい、なにかしら珍事を起こすが……。
それはいいことだけれど、いつまでこうなんだろう。
「アゼル、まだご機嫌ナナメなのか?」
「…………」
「ん」
背後に声をかけると、項にキスという返事をされた。
部位別キスの意味なんて知っているわけないので、アゼルご機嫌別キスの意味は〝まだ充電中〟である。
言っておくが今の俺の肌は、キスマークをつけられすぎてちょっとした皮膚病だぞ?
病名はアゼルに独占されすぎた病だ。
所有印にしても多すぎる。嬉しいが怖いな。
アゼルが確認してサインをしたので、出来上がった報告書をガド仮面に渡す。
渡しながらどうにかならないか? という目を向けてみたが、手遅れですと首を横に振られた。
うう、誰も教えてくれないことを、どうやって反省すればいいのかわからん。面目ない。
「仕方ねぇよう、魔王最終形態だし。俺と魔王の兄弟喧嘩は、血を見るかんなァ。一回した時、魔王の胴体が半分にもげた」
「……も、もげたのか」
「…………」
俺は呑気なガドの言葉に、思わず後ろ手でアゼルの腹あたりを確認してしまった。
アゼルはくすぐったかったのか、ピクピクしている。
ちなみにアゼルはガドが執務室にやってきた瞬間、瞬き一つで最終形態になったんだ。
なぜかわからないがなった。
仲間だぞ?
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