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十三皿目 ラブリーキングに清き一票(sideアゼル)

「魔王様……もう一度言ってもらってもよろしいですか?」 「あぁ? だから、俺はコレに出るから明日は休み取るって言ってんだぜ」  晴れたある日の休憩時間のことだ。  場所は俺こと、魔王アゼリディアスの執務室である。  コレ、と雑誌を開いて見えるように押し出すと、微笑んだままのライゼンは、自分の頬を抓って夢じゃないと絶望した。  なんて失礼な副官だ。  たかだか〝来たれ魔界の女装っこ! 魔界一可愛い男は誰だ!? チキチキ☆女装男子グループ対決コンテスト! 〜ポロリもあるよ〜〟に出るって言っただけじゃねぇか。  せっかく事前に申請したのに、聞き返された挙句頭を抱えられた。  納得行かず、雑誌を引き戻して不貞腐れる。  ──ことの発端は二週間前。  シャルが酔い潰れて、キス魔になった時の主な発言からだ。  曰く「かわいいから好きを伝えるためにキスをした」。  ──クッ、あのどこまでも素直な愛すべき馬鹿野郎め……ッ!  もっとそれより簡単な方法があるだろうが……ッ!  俺は当時酔っているとひと目でわかったが、一瞬、あまりにもデートに連れて行かない上に束縛が酷すぎて、ついに鬱憤が爆発したのかと思ってな。  いつの間にやら愛想を尽かされ、なにかと気の利くガドに乗り換えられたのかと、血迷った想像をしてしまったんだ。  でもそれは無理もねえだろ?  と言うか、元々アイツ等仲がいいから、あの距離感にガチ臭がしたと言うか。  ──グルル……思い出すと今でも殺意が……!  それなりに甘やかしている自覚があるガドに、初めて明確に殺意を抱いちまった。  いや、そもそもガドが恋人はおろか恋愛もしてねぇのが悪いんだ。  相手がいりゃあ俺だって、十割事故だと見抜けた。  尻尾は切るけど深淵魔法なんてアホみたいに魔力使う、当たれば必殺な魔法使わなくてすんだんだぜ。尻尾は切るけど。  ガドは昔から俺やライゼンに特別纏わりついていたが、そういうのは特定の誰かと関係を持ったりしない。  お姉さんタイプ、って感じの女に若干弱いとは思うが。  甘やかされるのが好きらしい。  俺達以外だと心底懐いてるのはシャルだけだから、兄のような気分でいる俺には心配なこった。  もちろん、自分のことは棚の上に投げ捨てる。  俺は恩人の勇者へ思いを馳せるのに忙しかったから、ノーカンだ。  友達がいない俺に恋愛なんか、ハードル高すぎだろうが。 (まぁガドが一生独身だったら、仕方ねぇからどうにかしてやるか……)  ……べ、別に甘やかしちゃいねぇだろ。  たまには厳しく躾もするぜ。なんたって魔王だからな。  閑話休題。  とにかく。  ガドの相手が影も形もねぇのは勘違いの理由で、今はどうでもいいんだ。  問題は、シャルがガドのほうが俺よりかわいいと思ってキスした(と俺は推理してる)ってことなんだよ。  あいつにイイと思われる感情の一番は、かわいいもかっこいいも全部俺じゃないと駄目だ。  そう、だからこそのコレ。  城下町で行われる、女装男子コンテストなわけだった。  シャルは元々女が恋愛対象である。  かわいがるのが好きな男で、かわいがられるよりかわいがりたい。 「──ということで、俺が女装して女に擬態し、民衆にかわいいと証明することで太鼓判を貰い、堂々とキスされるって天才的寸法だぜ。わかったか?」 「詳しく説明していただき感謝しますが、僅かばかりの同意も芽生えませんでしたけどね?」  俺が考えなしにこんなことをしようとしてるんだと思ってると考え、わざわざ懇切丁寧に説明してやる。  しかしライゼンは、虚空を見つめるような虚しい色の瞳で俺を映した。  わけがわかんねぇ。

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