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第413話(sideアゼル)
城下街で行われるこのイベントは、いくらか前に俺のもとへ実行委員会が許可を求めて、謁見しにきたヤツだ。
その時は特に深く考えずに許可したんだが、今になると意味を持つ。
こうして雑誌に告知が載っているのを最近発見して、俺はコレだ! と目が覚める思いだった。
ふっ、俺も成長しているんだぜ。
対症療法より原因を解決。
つまり相手を追い払うより、自力向上ってわけだ。
シャルがのほほんとしているので文句を言われないとはいえ、このままいつまでたっても変わらねぇのはダメだ。
シャルに近づくやつを全員威嚇していたら、アイツの交友関係が閉じてしまう。
それは良くない。
俺は仮に大事な奴らとシャルを比べると、どうしたってシャルしか選ばないが……アイツはそうじゃないからな。
気に食わないことだけど、シャルはみんなに好かれたいんじゃなくて、みんなを好きでいたいんだよ。
有り体に言えば、嫌われていても嫌いじゃない。
まぁ酷い話だが、俺を好きな奴は好きらしい。
好みが合うということだから、とか。
見ていてわかったことだと、殴られても罵倒されても、特に嫌いにならない。
そんな好きたがりでも、自分以外をそうされるとすぐに嫌になりやがるきらいがある。
要するに俺を嫌いな奴は嫌いなんだぜ。
ある意味でわかりやすい。
しかしそれは俺以外の奴らにも当てはまる。
即ち、俺が親しい奴らまで威嚇すると、そいつ等が傷つくので嫌になるわけだな。
……嫌になられるのか、……。
ま、まぁ、俺は温和な魔王で昔と違い成長した今は非常に心が広いから、そういう考えを尊重してやるんだ。
別にドンドン増える独占欲で束縛が強すぎると、流石に好感度が下がって捨てられるんじゃ、とかな。
危機感を感じ、今更心が広くなったフリをしてるわけじゃねえぞ。
純然たる成長だ。
嫌になられたら死にたくなるとか。
結局今でもキス魔事件根に持ってるとか。
そういうわけじゃねえったらねえ。
オイそこ、余計狭くなってるとか言うな!
兎にも角にも俺一人でアイツの欲求全てを受け止められれば、平和解決だ。
目移りする暇がないくらい、ベタ惚れにさせてやる。
余裕綽々の大人魔王様だぜ。
強く意気込んで機嫌よくテーブルの格子クッキーを一つ取り、ポイッと口の中に放り込む。
今日も最高にイイ出来だった。
俺のお嫁さんは、お菓子作りがうまいのだ。
「なにを隠そうとどのつまり、アイツが一番好きなのは俺だからな。ふふん。好きなやつがいくらもいるが、その中のナンバーワンはこの俺。そこだけはこう……モヤっとした時聞いたら毎回ブレなく一番は俺だと言いやがるから、確かだぜ。シャルは素面なら嘘を吐かねぇ。ふふふん」
ソファーで優雅なティータイムを楽しみつつ、足を組んでドヤ顔でいかに俺が好かれているかを自慢する。
しかし向かい側に座るライゼンは、虚ろな瞳のままにため息を吐いてジトーっと俺を見つめた。
「そう言われても現在進行形でキス魔事件を根に持ち続けていますよね。挙句ガドに好感度負けすることを相当不安がって、普段なら絶対やらない女装なんてものに一も二もなく食いついている時点で、魔王様のどこらへんが余裕綽々なのか……皆目見当がつきませんよ」
そしてしれっと俺に言葉のナイフを多方面から的確に投げつけてきたのだ。
チクショウなんてやつだ。
こいつ人が広くなった心で隠していたことを、見抜きやがった。
「おいライゼン! そういう俺がシャルを好きすぎて必死みたいなこと、言うな! 誰かが聞いてて余裕がないとバレたらどうすんだよ! そうなったら責任取れよ! 責任取って俺を捨てるのはまだ早いって説得しろよ!」
「もうほら想像だけで涙目になってるでしょう!? バレたらもなにも周知の事実、いや羞恥の事実じゃないですか!」
「やめろ言うな! だから俺はスリット深めのちゃいなどれすって奴で悩殺足チラしてシャルにベタ惚れさせるんだよッ! ハイヒールと真っ赤な口紅を用意しやがれッ! お気に入りの紐パンで勝負だ舐めるなよッ!」
「なんですかその妙に具体的な女装コンセプトッ! 絶対にマルガンの入れ知恵ですねッ!?」
──もちろんそうに決まってるだろうが!
叫びながらギャーギャーとうるさいライゼンに〝ムダ毛はもう全部処理済み〟と言うと、ついに頭を抱えて涙目になった。
フンッ、俺を涙目にするからだぜ。
ちなみにアホ勇者に聖剣で剃らせた。
ほら、アレ魔族とか魔王特攻だろ?
切れ味抜群で毛根からごっそり浄化されて楽だったんだよ。
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