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第414話(sideアゼル)
ハンカチを取り出し涙を拭ったライゼンは、悲壮感を漂わせる。
このポンコツ暴走状態を止めないとシャルに顔向けできない、なんて呟いて、キッと前を向いた。
馬鹿め。
止められるもんなら止めてみやがれ。
俺はアイツにかわいすぎてアゼルしか見えない! ぐらいは言わせてやるって決めてんだ。
テーブルに開いたままのイベントページを機嫌よく眺めていると、同じくのぞき込んでいたライゼンが声を上げた。
「魔王様。コレかわいさ審査とは別に盛り上げ目的でグループ対抗の競技があって、その対決の様子から審査員がポイントを足していくシステムみたいですよ? 出るにしても一人では出られません。三人必要です」
だからやめましょう、とでも言いたげな言い方だ。
だがその程度、この俺が見逃しているわけ無いだろうが。グループ対抗なことぐらい知ってる。
ふふん。
ライゼンは俺が誰かを、忘れているらしい。
日々仕事を熟し時に休みを取ったりサボることもあるか、数十年休まず働き続けていたのだから、そのぐらい許されるだろ。
休んだ次の日はフル稼働するし、自分の仕事の進捗ぐらい把握してる。
当然部下の仕事の進捗も、ある程度把握してる。
なぜなら俺は、魔王だからだ。
ライゼンの言葉にも動じず、ソファーに深く腰掛けたまますまし顔で指を指す。
「俺は魔王だぞ? 部下を連れていけばいいんだろうが。まずはライゼンだろ? あと一人どうするか……」
「はい?」
キョトンとするライゼン。
間抜けな顔がみるみるうちに引き攣っていき、俺の指とその先の自分を交互に見て震えだす。
「申し訳ありません。少しお言葉が聞こえにくかったのですが……まずは誰ですって?」
「ライゼン」
「無理です」
「あぁ?」
断言しやがった。
それも鬼気迫る勢いで身を乗り出して食い気味に拒否され、流石の俺も若干たじろいだ。
だって俺がサボっても小言を言いに来るが連れ戻さないライゼンは、基本的に俺のいうことは叶える奴なんだぞ?
今だって休むのは駄目だとは言わねぇだろ?
まぁ、後々困るようなことは止めるんだけどな。
今回はライゼンオンリー困るだけの頼みごとだったのに、速攻で断固拒否。
物凄く首を横に振っている。
なんだってそんなに嫌なのかわからないので、少し引いてしまった俺は譲らない心を持ち直し、眉間にシワを寄せて睨んだ。
クッキーの皿をこっそりとライゼンに寄せて、賄賂をアピールすることも忘れない。
が、無言で押し返される。
──こ、この野郎信じられねぇ……!
シャルのクッキーだぞ?
どうして悩むことなく返せるんだ? 物欲ねぇのかよ……!
「グルル……お前の美貌があればチームは優勝間違いねぇだろうがっ、鏡見たことねぇのか?」
「見たことがあるから嫌なのですよ……ッ! 魔王様のような男らしさを備えたまま美しい路線を安定して歩いている人は大丈夫でしょうが、私のような細身でどっちつかずの顔立ちの男が女装すればね、ガチなんです……ッ!」
「は? ガチってどういうことだよ。お前がプロフェッショナルなのは、見たらわかるぜ。女装界に詳しくない俺にも、わかるように説明しろ」
「プロフェッショナルじゃないですしなりたくもないですって言ってるんですよお馬鹿様ーーーッ!」
「オイ暑い」
必死過ぎてライゼンの周りに火花が散って、室温がやや上昇するほどの絶叫である。
俺はシャルのクッキーが燃やされないように素早く確保して、さりげなく召喚魔法域に匿い独り占めに成功した。
ついでに近くにある浮遊魔力を吸い取り、温度を下げる闇魔法を使って、部屋の熱気を取り除く。
豆知識だがこれは〝霧、渦まけ〟と言う詠唱の俺的に簡単な魔法を、出力弱めで周囲に漂わせるんだぜ。
元々は俺の周囲に濃霧を渦まかせて、それに入ってきた奴らの魔力をサクッと奪う魔法だ。
敵味方関係ねえから、使いドコロは限られる。
まあ、俺にとってはただのセルフ空調設備だけどな。ふふん。
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