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第431話(sideアゼル)
◇
「「オラアァァァアァッ!!」」
「はい、危ないですから下に居ないでくださいね。今機嫌がいいから下着くらい頼めば見せてくれると思うんで、覗きは後にしてもらえます?」
さて、こちらコンテスト会場。
現在行っているゲームは、綱渡りである。
会場全体の空中で蜘蛛の巣状に張られた細い綱の上に、選ばれたチームを適当に解き放つ。
そしてお互いを落とし合い、最終的に生き残ったチームには落とした人数分だけポイントが入る、魔界システムの競技だ。
『おっとォチームKMwithFッ! またも阻むライバルを一網打尽ッ! 立ちはだかる敵チームを容赦なく地に落としていきますッ! 飛行禁止の魔法縛りですが、本当に地力だけでのしているのかッ!? 生き残り争奪綱渡り〝女郎蜘蛛の巣~覗いてみろよパンチラ上等~〟を制したのは、パッケージ詐欺集団チームKMwithFだァッ!』
実況の声と共に高らかに響くカンカンカーンと言うゴングに、ウオオオオオッ! とそこかしこから野太い歓声が湧く。
勝負は決し、我がチームの勝利である。
クックック。
まぁわかりきったことだったけどな。
この俺と俺の部下だ。
格好がどうであれ、勝つに決まっている。優勝はもらったぜ……ッ!
初めは会場の扉を開けた瞬間見渡す限りがオカ魔だらけで、魔法禁止なのにゼオが氷魔法をぶっ放しそうになったが、それはそれ。
俺が跳んだり回転したり、殴って蹴って掴んで投げてと敵を仕留めれば、キャットが逃げ出す奴らを一人残らず締める。
そしてゼオがメイクも衣装もとんでもないことになっている屍を、淡々と掃除していくのだ。
フィジカルのポテンシャルだけで、十分ライバルのオカ魔達を蹂躙できている俺達は、完璧な布陣で開始からあらゆる競技を総ナメにしていた。
「クックック……クッフフフ……フハハハハ……ッ!」
上機嫌に高笑いする俺は、綱の下から女装した参加者のパンチラを見ようとキャーキャー言いながら黄土色の悲鳴をあげるガチムチ集団を鼻で笑い、悠々と舞台上に戻っていく。
漢女と書いてオトメ。
それがオカ魔である。
フッ……まさかこのコンテストの主催が、城下街の有名オカ魔バーだったとはな。
純粋な女装家もいるが、概ね男色家の筋肉ラバーだったのは、嬉しい誤算だ。
大事な有権者共がユリス的な男が好みのマトモな生き物だったら、俺では解釈違いで勝てなかっただろう。
あわや全員に拳をチラつかせ、「え? 魔王は? かわ? かわい? ん?」と優しく心の声を聴いてやる羽目になってたぜ。
命拾いしたな。
トロフィーは俺のものだ。
とは言え、おかげでライバルチームも半分以上ガチムチゴリラだったため、地に沈めるのは若干骨が折れた。
一つ目巨人、サイクロプスのオカ魔は、開始そうそうに全員で囲んで屠ったのである。
『いやあまさか魔王城城下街二丁目のエデン、オカ魔バー〝魔界のバラ園 〟では見かけたこともない謎の美女集団が、ここまで熱い展開を見せてくれるとはッ! 見た目に反して容赦のない攻めは、まさにパッケージ詐欺ッ! 観客である乙女たちの声援を独り占めです! 斯く言う実況の私も、強い女は大好きです! 魔族なのでッ!』
凱旋する俺達を実況が盛り立て、俺達は舞台上に並びドヤ顔で腕を組む。
注目が集まる中のヒーローインタビューはアピールチャンスだ。
「ふふん。お前ら、チラ一回につき俺らにポイント入れろよ? 十ポイント入れたら、ハイキックで意識飛ばしてやる。めんたま見開いて拝みやがれ。──浮世のあらゆることを忘れて、幸せに昇天させてやるわよ!」
バッ、とかきあげた髪を流し、顎を上げてニヤリと笑う。
足をあげて見せれば、歓声があがった。
ふふん、ちょろいヤツらめ。
男なんて単純なもんだ。
俺だってシャルが足をあげたら、食い入るように見つめるに決まってるぜッ!
「男のパンチラ拝みたさに広大な会場が埋まるほどの男共とニューハーフが集まるなんて、トップのせいか魔界は平和ボケしているな。喜べクソムシがッ! ──持点全てを投じた者に、パンツその物をくれてアゲルわッ!」
続いてキャットが唇に指を立て、シフォンスカートの裾をちらりと上げる。
それだけで絶叫する会場だが、パンツ丸ごととは大盤振る舞いだな。
俺だってシャルがパンツをくれるとなれば、地の果てからだって全票投げるに決まってるんだぜッ!
「ボケてんのはあんたらですけどね。……チッ、どっかにキレ味の鋭いツッコミでも落ちないのか……具体的には勇者だとか宰相様だとか……」
「ちょっとゼオにゃー! あんたちゃんと可愛い口調で話しなさいよ! さっき会議して決めただろうが!」
「そうよそうよッ! その無駄にドマゾばかり誘惑してる恥知らずな格好と目つきで、東方のオイラン口調ってのにするって決めただろう腐れヴァンパイアめ! ありんすよありんすぅ!」
「……わっちを巻き込むのはやめてくれなんし。わっちは主さんらほど恥知らずじゃあござりんせん」
「「ふぅ~~~っ!!」」
俺とキャットはニヤニヤとヤニ下がりつつ、馬鹿勇者に凶悪顔だど言えないくらい悪辣非道な悪童顔で煽る。
するとゼオが淡々と打ち合わせ通りに口調をかわいくしたので、一部のマゾ共が卒倒の勢いで興奮し始めた。
フッ、天然物のサイコよりサディストなゼオの使い方は、心得たものだ。
俺だってシャルがオイランってのになったら、丸ごと買い占めて毎日添い寝だぜッ!
ん? いや、これはもうやってた。
毎日一緒に寝てるからな。
クックック……俺の嫁は最強だ。やはりかわいいの擬人化だな。
『はい! もちろんドマゾである実況の私は、ゼオにゃーさんにオールベットでございますッ!』
「死になんし」
アピールに引っかかった実況の叫びに、ゼオはダークサイドに落ち切った瞳で、冷淡に吐き捨てた。
実況まで味方につけたら、俺らの優勝はますます磐石である。
いざ、ラブリーキングへ、だ!
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