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第430話

 対する俺は緋袴に白衣、襦袢、足袋に草履だ。  黒いストレートロングなカツラまでかぶらされ、それは後ろでひとつにまとめられている。  どう見ても巫女服であった。  巫女服であるが、屈強ではなくともちゃんと筋肉はついているし、身長も高い。  間違っても女性には見られない自分の顔を加味すると、男の巫女だ。  これで腕を組んで仁王立ちしたら、甘く見積もっても神社の番人かなにかだろう。  お守りを買いたければ俺を倒していけといった風体にしか見えない。  と言うか、巫女さんと俺を混ぜて残してはいけないところをチョイスして残した、モンスターじゃないか。  ふぅ……仕方ないな。  こうなったらいっそ笑われたほうがいいか。  なってしまったものはどうしようもないのだから、これがニュー俺でいくしかない。  腰に手を当て堂々と立ち、目の前のリューオから目をそらしつつ、俺は深く頷いた。 「笑っていいぞ、リューオ。化粧をするまでもない。グウェンちゃんに衣装チョイスを任せたのは、関西人に大喜利を仕掛けるようなものだった。失敗だな」 「それはわかったからこっち見ろよコラ。直視しろよ。この失敗じゃ済ませない魔法少女俺を。そして笑えよ。思う存分。笑って処理してくれよ、シャル。マブダチだろ? 俺ら」 「……ちょ、ちょっと、時間を貰ってもいいか?」 「おう、あくしろよ」  ドスの効いた低い声で無感情に告げたリューオに顎でクイッとさされ、俺は両手で顔を覆って視界を遮った。  よし。よしわかった。  考えるんだ。リューオの心情を。  リューオの衣装は、ふわりとしたセーラー服のような服だ。  襟の部分はピンクで、リボンは鮮やかな赤にフリルまで付いている。  丈が短くへそ出し状態になり、リューオの見事に割れた腹筋が夏らしく晒された、実に愛らしい衣装なのだ。  太ももが惜しげもなく見せつけられた短すぎるスカートも、当然ピンクである。  白のニーソックスと赤いローファーはオーガの女児用なのか、百九十近い長身のリューオでもぴったりのサイズだった。  そして薄いブラウンの手袋に、付け袖。  セーラー服の後ろで絞られているらしい長いリボンが僅かに揺れ、威圧感を出している。  頭の上には、かわいらしい飾りが付いたミニハット。こだわりの逸品だな。  それじゃあ話を戻そう。  金髪ツンツンの凶悪な顔つきでアゼルよりガタイのいいリューオが、このラインナップの衣装を身にまとって出てきたら、だ。 「……ぇ、ぇう……」  ──そりゃあ俺だって、目をそらしてしまうに決まっているだろう……!  目を開けられずに顔を手で覆い、あんまりな惨状に震え上がった。  笑えない。  笑えないくらい悲惨だ。  俺がリューオなら、三日は部屋から出たくない程恥ずかしい。  雄々しい巫女さんなんか目じゃないぞ。  大の大人が魔法少女だか美少女戦士だか、わからない格好をするなんて。 「あはははははは! 勇者、君は最高じゃないか。絶対に似合うと思ったんだ!」  どうしようかと悩み込んでいると、空気を読まない殺されたがり幼女のおじさまボイスが、冷え切った沈黙を引き裂いた。 「これほど愉快な格好なら、あの無駄に似合ってしまったナイルゴウン一行の面白みのない展開に飽いているゲテモノ食いのオカ魔族達の票を、一気に掻っ攫えるぞ!」  幻術に近い擬態だから声がそのままなグウェンちゃんの、非常にご満悦で全く悪意のない、無邪気な賞賛。  拍手すら送っているそれが聞こえた瞬間、未来を察知してしまった。 「……うぅ」  俺は困りきって眉を垂らしながら、トコトコとベッドで眠るタローとマルオのもとへ向かう。 「…………結界。魔法反射三重、熱遮断三重、音遮断三重……。また部屋が壊れる。天使なんかきらいだ……」 「──炎、燃えろッ! 渦巻けッ! 百槍百弾百龍擊ィィィィィィィィィイイイィィィイイッッ!!」 「うん?」  ──ドゴオオォォォオオンッ!!  俺が避難を完了させた途端、魔法少女というより悪魔超人なリューオの炎魔法が炸裂した。  噴火じみた爆炎と爆風が迂闊な幼女に襲いかかって、俺は泣きたい気分でグウェンちゃんごと吹き飛んだ部屋の壁を見送る。  偽幼女と女装した聖剣の勇者が外でやり合う声を聞きながら、肩を落とした。  ポケットマネーで足りればいいんだが……、と自分の貯金を思い返し、修理費用に震え上がるしかない。 「ん……んー……? んー……おとさ……うーしゃるー、ぎゅーしてぇ」 「……ムッ! オキタ、マルオ! オキタ! オハヨウシャル! ギュー、マルオモ! イイカ? ダメカ?」 「いいよ。おいで、二人とも。できれば寝ぼけたまま、俺の格好には触れないで二度寝をしてくれると、シャルは嬉しい」  こうして意図せずゼオと同じく光のない瞳で諸行無常を噛み締め、悟りを開くこととなった午後。  俺は癒し担当のタローとマルオを抱きしめてなで、寝かしつけることしかできなかった。 (ただアゼルの応援に行きたいだけなのに、魔界はどうしてこうなるんだ……?)

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