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第429話

 リューオ曰く、身分を隠してお忍びだと言っていたらしいから、みんな肩書きと言う印籠を持ってない。  男なのでポロリする胸がないと思うが、やましい目で見られるなら胸筋でも俺はNGだ。  焦りだす俺に、グウェンちゃんはウンウンと頷いた。  リューオがそれをギロリと睨みつけるが、グウェンちゃんはなんのその。 「まぁ、そう怒るものじゃないぞ? 勇者。女装なんて、恥ずかしいことでもなんでもない。妃は行く気満々だよ? 彼を放って私と二人きりにしてもいいのかい?」 「アァッ? ンなことするぐらいならテメェをミンチにしてシャルを送り出し、俺は平和に覗き見して、狼狽える魔王を笑ってやるに決まってんだろッ!」 「あはは、格好ぐらいで怖気づくなんて、勇者は繊細なのだなぁ。何事も楽しむ余裕がないと、恋人にフラレてしまうよ? まぁ、度量の深さは人それぞれか……ナイルゴウンは全力を尽くしていたが、敵前逃亡も選択肢さ」 「は!? 上等だオラァッ! 俺は逃げも負けもしねェしフラレもしねェわド畜生がッ! やってやるぜ衣装持ってこいよテメェッ!」  ──こうして、見事全員が女装に前向きになってしまった。  リューオは火をつけられ、今にも噛みつかんばかりの形相で唸る。  俺はハラハラとアゼル達の安否を思いオロつき、グウェンちゃんはにへらと笑って、子供のように瞳を輝かせる。  グウェンちゃんは狂奔の天使だ。  俺達は気がついていないが、彼の提案に心が同意すると、目的に向かってしゃにむに走り出してしまう、厄介な能力。  要するに「そうかもしれない」と思うと、ついつい口車に乗ってしまう力なのだが……。  それは大抵彼の破滅願望に使われることとなるので、今回も知らぬ間に大いに巻き込まれたわけである。  女装姿の天王と魔王が顔を合わせれば、ひと騒動起きることは明白なのだ。  どうにか回避できればいいが、どうなることやらの三人組である。  ♢ 「「せーのっ!」」 「あーはっはっはっはっ!」  纏っていたタオルケットを一斉に取り払うと、グウェンちゃんはそれは楽しそうに腹を抱えて笑いだした。  なんて失礼な天王だ、と抗議をするところだが、今回ばかりは文句を言えない。  こちらは笑えないほど、げんなりしているからだ。  まず、〝ディメンションムーブ〟と言う天王の固有聖法がある。  いろいろと制約があるらしいが、端的に瞬間移動である。  一度行ったところなら行けるコレで、報告前に城下街観光をしたグウェンちゃんは、女装コンテスト会場へ向かうアゼル達を見かけて後をつけたらしい。  聖法が魔族に感知されない特性を、惜しみなく活用している。  これまでのアゼル事情やコンテストの話は、そこから知ったと言うわけだな。  そして翼を引っ込めつつ、その能力で城下街からあれやそれやと衣装を買ってきたグウェンちゃんによって、俺達は見事なクリーチャーにメタモルフォーゼしていたのだ。  グウェンちゃんはまだいい。  魔法や擬態薬を使っていないかの検査があるらしいが、聖法は大丈夫という屁理屈で、見事な美少女になっている。  タローよりいくらか年上かなと言った年頃で、銀髪を二つ結びにした愛らしい幼女だ。  際どいミニスカとハイソックスの絶対領域は、流石の代物である。  中身は何百歳と言うおじ様なのだが。  女装コンテストだから少年体で衣装を女児のものにしたと言うが、見た目は普通に女の子である。  リューオが三白眼で「これはジャンル的にロリババア、違うロリジジイか。なんだよそれ意味わかんねェ」と睨んでいた。  ショタコンのリューオでも、グウェンちゃんはノーサンキューなんだな。

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