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第439話

 花道の端にやってきたキャットは、ポケットからスッとなにかを取り出し、ツンと斜め上から観客を見下ろす。 「約束のブツよ、受け取りなさい。もちろんポイントは……わかってるわよね?」 「「「ギャァアァァアッ!」」」 「っ、う、な、なんだ……?」  キャットが取り出したそれを投げると、大興奮の観客達が我先にと群がり、それに手を伸ばした。  俺は驚いて、投げられた方向に視線をやる。  そこにあったのは、うまくキャッチしたらしい魔族が高らかに掲げる──女性用下着だった。 「…………」  なんの約束かはわからないけれど……キャットは下着を投げたらしい。なんということだ。  と言うことはまさか、アイツは今、ええと、スースーしているんじゃないか?  あのシフォンスカートの下で、スースーしているのか。男前だな。  ゴクリ。唾を飲んだ。  キャットは自分の下着を犠牲に大量のポイントを掻っ攫い、当然のように颯爽と舞台に戻っていった。  俺にはできない捨て身の発想だ。  ひっそりコインを一本分、回収するスタッフに渡しておく。  続いて出てきたのは、二番手のゼオ。  認めた人の言うことは大抵甘んじて受け入れるゼオなので、文句は言わずにマイク的な役割をしているチョーカーを受け取る。 「あー……わっちはゼオ、にゃー。趣味はやりたいことを適当にやること。特技は逃げる馬鹿を捕まえて、躾けることでありんす。種族はハーフヴァンパイア。ハーフは半端者だとおっせえす方は、一物踏みつけて雄として半端にしなんすえ」  自己紹介はブリザードな威嚇で締めくくられ、フゥー! と声が上がった。 「逆にッ! 逆にそうされたいってマゾなあたしはどうしたらいいのっ!? プレイとして楽しみたいんだけど!?」 「ちょっとアンタ興奮しすぎィ!」 「だってヴァンパイアなんて時点でエロいじゃないのっ! あいつ等吸血イコールセックスなんだからね!? 食事と共によ! 毎日エロティカルパレードよヒャッホウ!」 「それアンタの元カレの話でしょッ! アタシも踏まれたぁいッ! 毎日性的な意味でダンシングレボリューションッ!」  それ故に一部のドMなオカ魔さん達に大人気なゼオは、なぜか郭言葉を駆使し、楚々と花道を歩いて行く。  鎖骨を強調した花魁衣装、打掛を着こなしながら、観客には目もくれず冷たく目を細める無表情な男。  女性らしさのない顔立ちのゼオだが、衣装と化粧のおかげで、今は一見素朴で美しい女性に見えた。  一切裏声等を使わないので、声は低い。  だが口調に似合うスローテンポなので、妙な威圧感がある。具体的に例えると、姐さんだ。  花道の端にやってきたゼオは、あぁ見えてとても緊張しているキャットと違い、人目を気にした様子は全くない。  だがコインをスタッフに渡す為に花道のすぐ前に来ていた俺を発見して、瞬きを長めに目を閉じた。  むむ、見たくないもの扱いされたぞ。  軽く手を振ってみると、わかりやすく嫌そうな顔までされた。  口パクで「見るな」と言われて、素直に目を閉じる。大丈夫、ちゃんと見ないぞ。 「……お代は残りの持点全部でありんす」 「「「はぁ〜〜いっ!!」」」  締めのセリフとドMさん達のお返事が聞こえたので、そっと目を開く。  花道には打掛の袖を翻してさっさと舞台に戻っていく、ゼオの後ろ姿が見えた。  後ろ姿は凛としたもので、とても綺麗だな。  憮然とした態度から一部のコアなファンの票を根こそぎかっさらった二番手のゼオは、納得の艶やかさだった。

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