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第440話
さてさて、残るは三人目だ。
例によってこっそりとスタッフにメダルを一本分渡した俺は、ついにトリのアゼルがムスッとしながら前に出るのを、期待たっぷりに見つめる。
アゼルは遠目で見ると、完全にその筋の女王様だ。
しかし前の二人より身体のラインがはっきり出る衣装なので、筋肉質で細身の肢体が、なんとも言えない男感をにじませている。
期待に目を輝かせるのは、俺だけではない。
観客達も待ちきれずみんな前のめりになり、アゼルが歩いてくるのを今か今かと待っていた。
俺が来る前になにをしたのかわからないが、妙に人気があるみたいだからな。
一位チームのリーダーは伊達じゃない。
──なのでまさかアゼルが、借り物競争でケモミミ魔族をお姫様抱っこしたり、だ。
ローション相撲で対戦相手を全員ヌルヌルにした上、足蹴にし、性癖開花させたり。
綱渡りバトルロワイヤルで、パンチラ込みハイキックを売り込んでいたりしていたことなんて、な。
「よし。これは絶対にしくじらないよう、きちんと投じるぞ」
アゼルに見つからないように潜みつつ、華麗にコインを投じるべく身構える俺は、当然知る由もないのであった。
そうしていると、当事者であるアゼルが、アピールを始める。
女装していてもいつもの癖が出ているアゼルが軽く顎を上げ、目を細め、舞台を見下ろした。
カツン、とヒールで床を鳴らしてから腕を組み、色っぽく口元を緩ませる。
「跪いてよく聞くのよ。アタシはアゼリーヌ。特技は殲滅魔法、趣味はティータイム、後は以下略。……ねぇアンタ達、アタシが魔界で一番かわいいでしょう? 異論があるならかかってらっしゃい。──全員アタシの言葉には〝仰せのままに〟としか言えない体に調教してやるわ」
「「「フゥゥゥゥウッッ!!」」」
「んんと……ふぅー」
アゼルが逆らい難い声音でゆっくりと言葉をつむぎ、少し首を傾げた途端だ。
ノリノリの観客達が人気アーティストのコンサートのように腕を上げ、ドッと沸き立ち歓迎した。
声量が凄いが、流石に慣れたな。
耳は塞いだ。
ライブに行ったことなんてない身ながら、俺もそれに習って声を上げてみる。
パチパチと拍手もしたぞ。
ノリはこんな感じでいいのか?
場違いだと恥ずかしいが場のノリに乗れるとなんとなく嬉しい。
アゼルを見つめ、頬をゆるめる。
(それにしてもアゼル、楽しそうだな。凄く綺麗だ。とってもかわいい)
ノリノリのアゼルは本人の言う通りラブリーキングに相応しく見えて、俺は誇らしい気持ちになった。
一人称がアタシなくらい女性口調が様になっているし、やるなら本気でがいかんなく発揮されている。
それに観客を煽るやり方を他の参加者で学んだのか、歩き方や表情の作り方も妙に色めかしくて、ハラハラした。
い、いけない。
あんまり本気で頑張ると、ガチ勢にロックオンされてしまうぞ。
「キタわよぉぉぉおッ! 期待の新星ッ! 新進気鋭の美脚女王アゼリーヌッ!」
「な、なにかしらね、あの目付きと威圧感は……ッ!? 逆らいがたいワ……ッ! 悔しいケド高飛車な態度が許される美貌とは別に、従いたくなっちゃうッ! ムキィィッ!」
「ンもうそこだけじゃないわよッ! ローション相撲でプールに容赦なく落とされたカマー達が溺れると、そっぽ向きつつ引き上げて待機してるスタッフに投げつけるさり気ないツンデレなトコロッ! そこがたまんないに決まってるデショッ!?」
「いや細かッ!! さてはあんた、ギャップ萌えね?」
「いかにも」
「重低音はヤメなさい」
逆らいがたいのは常時威圧スキルが感情に合わせて強く出てしまっているだけだ。
なんて考えていると、気になる話が聞こえてきて、俺はソワソワと落ち着かない。
むむ……周囲のオカ魔さんの話を聞いてしまったところ、一部のファンにはツンデレなのがバレているらしいのだ。
(うぅん、ローション相撲とはなんだろう? 後でアゼルに聞いてみようかな)
そうして考えながらもアゼルが花道の端っこにやってくるのを、観客にまぎれてコインを握りしめつつ待つ。
しかしアゼルに夢中な俺は、初めは人混みに隠れていたのだがポイント追加で少しずつ前に出てしまっていたことに、全く気が付かなかった。
要するに──ゼオが気付く距離にいる俺に、俺ガチ勢のアゼルが気が付かないわけがないのだ。
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