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第443話

 そうして丸く収まり、平和に帰ってきた魔王城。  そこには俺が出かける前なんて目じゃない程の惨状が、眼前に広がっていた。  なんてことだ。  全く平和じゃない。  部屋の壁は優秀な作業員の黒人狼達が塞いでくれていたが、室内の大惨事は壁以上である。 「貴方は魔族よりも短気なのですから、ちゃんと反省してください。我が主の私室の壁を破壊して、殺され趣味な天王様とやり合うなんて、言語道断です。修理費用はお給料から引いておきますからね?」 「ウィッス」  まずは魔法少女な衣装のまま床で正座する、ボロボロのリューオが目に入る。  そして彼の目の前で仁王立ちしつつニコリと微笑むライゼンさんが、お説教をしていた。  極めつけは元の姿に戻っているグウェンちゃんが、回復すらできず、焼け焦げて床に倒れ伏している。  ニヤけているのが恐ろしい。  あれは本物の変態さんだ。  それからベッドの上を見てみると、この世の終わりかのように泣いているタローがいた。 「しゃ、しゃるぅ〜っまおちゃぁぁ……っ! どこぉぉ……っ? わたっ、わたしおいて、おいてかないでぇぇ……っ! ぐすっ……うぇぇんっ……!」  視線をずらすと、そのタローをアリオ、キリユ、オルガの信号機カラーな竜人三人組が囲んで、オロオロと慌てている。 「や、やばいよ〜ッ! 一発芸も歌もダンスも駄目だぜアリオぉ!」 「だーッ! 諦めんな! 魔王様のお嬢さんだぞっ!? 泣かせたまんまだと叱られる〜っ! どうして貰ったお菓子を全部食ったんだよオルガァ!」 「やめられない止まらないからに決まってんだろーッ! キリユ、ピカピカしてやれよっ」 「そうだそうだッ! 光れよキリユ!」 「いや俺雷魔法使いなだけで光らないしっ! お前ら勘違いしてるけど、ピカリネズミの魔族じゃねえからなーっ!?」 「「な、なんだってーッ!?」」 「もおおぉクエレブレだよッ! 竜だよッ! 空軍の軍魔だって知ってるだろッ! 万策尽きて現実逃避すんなようっ!」  俺が対価として支払ったお菓子は、全部食べてしまったらしい。  涙する子供の扱いがわからず、光ることを強いられたキリユが、うっかりバチバチッ! と電気を発した。 「ひぐっ……! ば、ばちばちしたぁぁぁぁっ! うわぁぁぁんこわいよしゃるぅまおちゃ〜っ!」 「「「うっうわぁぁぁんっ!」」」  驚いたタローが更に泣き出し、状態は悪化だ。  最終的に三人が抱き合ってタローと一緒に泣くものだから、収集がつかなくなっている。  狼アゼルの頭の上で窓の外から中の様子を伺う俺達に、誰も気が付かないほどのカオスだ。 「……これは……早くなんとかしないといけないな……」  ストン、と小さめのテラスに降りて、どこから手を付けようか、と悩む。  親としては取り敢えず、タローを抱きしめて安心させてあげるところから始めないとだ。  そんな俺の隣にいつ間にやら完全復活し、むしろ勝ち誇った笑みを浮かべているアゼルが、降り立った。  ニヤニヤと笑うアゼルは、第一形態のノーマルアゼルに戻っている。 「もうベコベコメンタルは治ったのか? アゼル。このカオスを終息させてほしいんだが」 「フンッ、誰に言ってやがんだ。自分の部屋くらい一瞬で制圧してやる。まず、俺はメンタルベコベコになんかなっちゃいないぜ? 無敵だ。なんてったって、世界一かわいい魔王だからな? ふふん、ふふふん」 「…………お前は本当にかわいい男だなぁ」  ガンッ。  わかりやすく喜んでいるアゼルにしみじみとかわいさを噛みしめると、彼は無言でテラスを蹴った。  かっこいいんだと言い張っていたのに、かわいいでも照れるのか。  アゼルは一連の騒動で、かわいいが褒め言葉になったみたいだな。  なんだか微笑ましい。  夕日で仄かに赤くなるアゼルは、もうすっかりいつも通りのようだ。  室内のカオスを収束させるため、いざ室内へ。  仏頂面のままバァンッ! と窓を開け中に入ると、腰に手を当て、一息で一喝する。 「ラブリーキングのお帰りよッ! あんた達……全員跪いて、あたしをかわいいと崇めなさい?」 「「「え?」」」  ──……うん、アゼル。  俺は、終息させてほしいと言ったのであってだな?  認められて嬉しいあまり、自分のかわいさを知らしめておいでとは、言っていないんだぞ。 「今日のディナーまでには、片付くだろうか……」  ご機嫌麗しいアゼルが新たな爆弾を投下して惨劇側に加わってしまい、うーんと顎に手を当て、悩むしかない俺だった。  ──余談だが。  アゼルのチームはリーダーが退場したにもかかわらず、トップに輝いたようだ。  個人点もトップだったらしいアゼルは、俺の世界だけでなく、オカ魔界でもかわいさナンバーワンとなった。  しかしトロフィーを届けに来たゼオが「シャルは乙女な魔族からクールで抱かれたいって言われてましたよ? 良かったですね」と淡々と報告し、苦笑い。  俺はスケベ呼ばわりの追い打ちを受け、微妙な心持ちである。 (ちっともクールではないし、抱かれたいと言われても、俺は抱かれないと満足できない男なんだが……)  かわいさナンバーワンのラブリーキングは抱く側で、それをお姫様抱っこで退場させた俺は、抱かれる側。  俺のやらしい姿はアゼルだけのもので、夜のアゼルのかっこよさは、俺だけのものだ。  チグハグな俺達だが、自慢の旦那さんをかわいいと褒められて、嬉しくないわけではない。  俺はキュッキュと磨いてから飾り棚の目立つところに、鼻歌交じりにトロフィーを飾ったのだった。  十三皿目 完食

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