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第447話(sideタロー)
自己紹介をした私はやっぱり泣きそうだけど我慢して、もっと我慢する。
がどくんを知っているりゅーじんさんが声をかけてくれたから、もしかして助かるかも。
私は警戒を少しだけ緩めて、りゅーじんさんを見つめた。
りゅーじんさんは笑っていたけど、迷子の私を気の毒そうにして「それじゃあ俺がガドくんのところに連れ行ってあげようか?」と言ってくれた。
「ほ、ほんとう?」
「おうさ。俺はリンドブルム魔族だから空も飛べるし、魔力を辿ってガドくんを見つけてあげれるよ」
「っがどくんっ、あえるのっ」
りゅーじんさんの言葉を聞いて、我慢していた涙がだばーっと滝のように流れ出す。
ううう、安心してだめになっちゃった。
ゴシゴシ擦って涙を拭う。
よかった! よかった!
これで迷子は終わりだね。
私はいっぱいごめんなさいをして、それからもう絶対約束を破らないって約束しないとっ。
がっこにいったらお勉強をたくさんして、もう離れ離れにならないようにがんばる。
れーほー……んと、霊法、のきょうかしょをさいしょーさんがプレゼントしてくれるって言ってたから、私は強くなる。
(もう一人ぼっちにならないように、私はいいこになる……!)
ぐっと決意した私はまたがどくんに会えるのが嬉しくて、すっかり安心してしまった。
勢いよくりゅーじんさんについていく、と言おうとしたけれど、ふと、思い出す。
『タロー。俺や皆といる時は、心の思うまま動いてもいい。わからなければ、聞けばいい。いつもそう言っているな?』
『うん! ……でもわたしがだめなことしたら、まおちゃんはいっつもしかる。しゃるはぜんぜんしからない。まおちゃんはつんつんおこる』
『ふふふ、それはアゼルの愛だ。アゼルは心配性だから、テラスから身を乗り出すととっても怒るんだぞ? 俺はお菓子屋さんだから、飴担当なんだ』
『あめたんとー? まおちゃん、わたしがすきすきだからしかるの? あめたんとーじゃない?』
『アゼルは鞭担当だ』
ポワポワと頭に浮かぶのは、大好きなしゃると交わした言いつけだ。
今日、お買い物に行く前に、しゃるはよしよしとぎゅーっをしてから、指をピコピコ立ててゆっくりと言い聞かせてくれた。
『タローがいけないことをしたら、アゼルが叱って、俺がわかるまで説明するだろう? だけど今日は、ガドくんだけだ。もしも迷子になってしまったら、タローが一人で考えないといけない』
『かんがえる……』
『そう』
しゃるは言う。
例えばあれがしたい、あそこが見たい、これが欲しい。
そう思う時はいろいろと、自分で決めることがあるのだと。
そしてそうなったら、すぐに決めずに五つ数えて考えるんだ、と言った。
私には難しかったけど、しゃるはわかるまでゆっくりと教えてくれる。
それから最後にないしょばなしをするみたいに、耳に口をくっつけた。
『落ち着いて見ると、ほんの少し未来が見える。本当だぞ?』
『みらい? みらいみえるのっ? すごい! わたしちゃんとかんがえるのするよっ。……? ねえねえしゃる、まおちゃんは五つかぞえてかんがえないよ? なんで〜』
『ぐっ、痛いところを突くな。これが噂のなんでなんで攻撃か……。ええと……まおちゃんは魔王だから、チートポテンシャルでなんとかするんだよ』
『ちーと?』
『あぁ。まおちゃんは迷子になっても自分で帰ってこれるし、悪い人に囲まれてもえいやあってできる。タローは知ってるだろう?』
『おぉ、しってるよ! まおちゃんね〜えいやあってしないくても、おててをこう、ホイホイってするの。そしたらがおがおがドーン!』
『……うん。タローはドーンできないから、ちゃんと考えないといけないんだ』
ないしょばなしが楽しくてはしゃぐと、しゃるは困った顔で笑っている。
つんつんと頭をつつかれて、しゃるをじっと見つめた。なでなでもしてくれる。
しゃるは優しいおとうさん。
『ガドくんの言うことを聞いて、離れないこと。知らない人について行かないこと。なにかあったら、助けが来るまで大人しくしていること。迷子になったら、そこから動かないこと。……俺と約束、守れるか?』
『まもるっ、わたしはしゃるが……んとね、おとうさんがすき。いいつけをまもるよっ。だからいってきますのぎゅーとちゅー、わたしにもして〜っ!』
『あははっ、ようしいい子だな? タローは。行ってらっしゃいのハグとキスは、アゼルとお前にしかしない。俺もタローが大好きだよ。行ってらっしゃい』
しゃるのお話する時の声はとっても優しくて、甘くはないのに、ずっと聞いていたくなる。
だから私は嬉しくなって、守るよと笑ったんだ。
いつもまおちゃんだけが貰えるしゃるの行ってらっしゃいを貰って、ゆびきりげんまんって言う約束の誓いをした。
がどくんがとっても尻尾をびったんびったんさせていたけど、あげないよ?
(約束、うーん。いち、に、さん、し、ご。私、考えた!)
ポワポワとお城を出る前の出来事が引っ込んで、私は五つ数えて、しっかり頷く。
それからりゅーじんさんに向き直って、首を横に振った。
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