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第449話(sideガド)
タローがいなくなった。
俺がちょっと外套の支払いで目を離していたスキに、タローは店の中からいなくなっていたのだ。
俺はすぐに外へ飛び出して空へ上がったが、近くにそれらしい子供は見えない。
顔には出ないが、久しぶりに血の気が引いた。
アイツには魔力がないから、匂いでは追えない。
そうすればちまこい子供一人を人の群れから見つけ出すのは、骨だ。
これは完全に俺のミス。
聞き分けのいいタローだから、油断してた。
子供の扱いで最も基本的な〝目を離さない〟ってコトを、やれてなかったぜ。
そうだ。
いくら精霊族故に学習能力が高く躾ができている、なんて理由を並べたって、タローはまだ生まれて半年程度。
理解が早いのは関係ない。
物事を知らない、無垢な子供なのだ。
城の外に出たのは初めてだった。
知らない土地だ。
興奮もするしもの珍しくて駆け出しもする。
たった一度の失敗で、魔族じゃねぇタローに弱者は服従で自然淘汰される魔界ルールを当て嵌めるのは、あんまりだろう。
失敗してこりゃイケないと学び、子供は大人になる。トライアンドエラー。
それがまだ十分なわけねぇのに、イイコだからと油断して俺は目を離しちまったんだ。
オタンコナスの俺よ。
なにより、そんな子供の性質がわかっているから、シャルは俺によろしくと言ったんだぜ。
楽観的なのは長所であり短所だと自覚があるくせに、いつも一人で彷徨くからうっかりしてたとでも言うのか? クソが。
うっかりもうっかり。
魔王の名付けた〝守る者 〟の役目を果たせてない俺はとんだ間抜けで、これじゃ褒めてはもらえねぇよ。
タローがいないと気づいて、それほど時間は経っていない。
俺はすぐに周りの魔族にタローを見たか聞きまわって、街の端から端を空の上から探索していた。
心臓がドクドクしてやがる。
はぐれて即危険な目になんてまァないだろうが、どういうこった。
一向に落ち着かない。
多分コレはハラハラドキドキのドキドキだ。
だがそれほど経ってない筈なのにこうも見つからないのは、おかしいと思う。
ドキドキは正しく働き、俺のよく当たるカンも騒々しいもんだから、尻尾がグネリとうねって鱗がザラつく。
──俺を突き刺す敵意の視線も、背後からドンドン近づいてきやがったしなァ?
空軍の巡回についている俺はそれなりに顔が知れた魔界軍の幹部。
空飛ぶ俺の周りじゃ、街の魔族はこぞって道を譲る。
なのに近づいてくるのは馬鹿野郎って、相場がきまってんだ。
ことと次第によっちゃァ、血の雨が降るぜ?
地上の奴らは早急に傘を買うことをオススメしてやんよ。
「──よう、ガドくん。ご機嫌麗しゅうってやつ、かね」
「クックック、麗しいも麗しい。俺ァご機嫌過ぎて、うっかりお前を八つ裂きにしてしまいそうだなァ……。……気安く人の名前を呼んでんじゃねぇぞ」
くるりと振り向いて、にこやかに挨拶をしてやる。
ちょびっと最後は感情が漏れたかもしんねぇけど、それはご愛嬌。
俺は概ねキュートな竜だ。
相手は語調こそ穏やかぶっているが、土色の尻尾がビチビチしていた。
ご機嫌麗しくないのかね。
安心しろよ、どうでもいいぜ。
焦げ茶の髪と、額から生えるグニャリと湾曲した角。
土色尻尾と翼は、沼地一帯を縄張りにするリンドブルムと言う竜種の特徴。
コイツ自体は知らねェケドなァ。
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