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第450話(sideガド)

 知らない魔族に親しげに話しかけられても困る。  しかしその名前の呼び方がタローのそれだったから、俺の神経はシャキンと鋭利になっていく。  大人じゃねぇからなァ。  癇癪起こすしダダも捏ねる。ガドくんは六十八歳児。  言っておくが、魔界軍の問題児は陸軍長官じゃなくて俺だぜィ。  無駄な問答も余興も全部いらねーのよ。  でも間違って民草を殺すと始末書書かないとなんで、ちゃァんと事実確認もすんだ。  幹部は辛いな。 「そんで見ず知らずのお前が、俺になんの用だァ? 俺の探してる小鳥ちゃん関連なら、さっさと要件と経緯を一分でスピーチ。そうじゃねぇなら、忙しいからバイバイ。やかってんなら骨まで溶かす、かもな」  コテンと首を傾げて尋ねる。  すると相手はカッと顔を真っ赤にし、怒りを顕にした。 「っ、お前! 見ず知らずって、俺が誰だかわかんないのかい! 俺だぞ!」 「俺って誰よ、俺も俺だぜ? 詐欺じゃんよ」 「~~ッかああああっその自己中変わんねぇなちくしょう! 沼地のリンドブルムの村のデビーッ! 元お前んちの近所に住んでたデビラント・ノーヴァンだよッ! 余裕綽々険悪ムードのラスボス系ドヤ顔で現れたのに、なんで覚えてねぇんだよバカ野郎ッ! だから嫌いなんだよッ、バーカバーカッ!」  ほーう?  わかった。コイツ馬鹿だ。  俺は腕を組みつつ、キレてる時以外のデフォルトフェイスなニヤニヤ顔で、地団駄踏みつついわれのない罵倒をするリンドブルム──デビーを眺める。  ちなみに名前を言われても思い出せてないぜ。クックック。  恥ずかしいやつだなァ。  せっかく珍しく身構えて真剣に対応してやるつもりだったのに、煽り耐性ゼロか。  煽ってるというか本気で覚えてねーだけな。  俺は嘘は吐かねぇ。  吐けないじゃなくて、吐かねェ。って適当なクソガキ。  そもそも馬鹿なのに俺のことを馬鹿呼ばわりするってのは、どういうこった。失礼だ。 (おろん。ライゼンに馬鹿って言ったら駄目だって教えられなかったのかァ?)  ダメだぜ~。  ママの言うことはきかねぇと。  俺と魔王はついポロっと暴言を吐くから、よくライゼンに叱られてたんだ。  俺は懲りてない。  そうやって躾のなってないバカデビを観察していると、バカデビはグルグルと唸ってから深呼吸し、俺を睨みつける。  その様子を観察したが、タローの痕跡は発見できず。  周囲に仲間らしい輩の気配もなし。 「いいか、シルヴァリウス! お前の女は預かった! わかったら大人しく俺に従え。そいで俺を殺しても仲間が女を殺すから、抵抗は意味ないぞ? 俺を傷つけてもだめだ。そういう決めごとをしてから来てるからな」 「おうさ。わかったから取り敢えずはよ案内しろよぅ。そういうの初めてだけど、本でよく見る展開だからちゃァんとわかってんぜ。人質とってボコすんだろ? 優しくしろよ~」 「えっ? あ、そうか。うん、わかったぜ。うんうん」  まあわかってたけど、案の定タローを攫った犯人で脅しをかけてきたバカデビに、無抵抗で頷く。  なんでびっくりしてんだァ?  俺は無駄な抵抗はしないいい子だってのにな。  ボコされても後でライゼンに治してもらえば、サラピンの俺降臨だぜィ。  使える回復マシンはいくらでも使おう。  ノーリスクノーリスク。  バカデビはなんでそんなにあっさりしているのかと不思議そうだが、当たり前のことだ。  んー……だってなァ?  ここでごねてもいいことねぇよう。  タローが自分でなんとかしようと抵抗したりして、仲間ってのに予想外にうっかり傷つけられたりするほうがヤダぜ、俺は。  シャルと魔王の娘だろォ?  自分でやっちゃうかもだ。 (囚われの姫さんは言いつけ守ってっかなァ……)  基本乱暴者。  裏を返せば脳筋ゴリ押し種族である魔族。  なのであっさり丸め込まれたバカデビは抵抗しないよう言い含めると、俺を連れて町外れへと移動し始める。 「そうそう、言い忘れてたけどタローに傷があれば死んでも殺すぞ?」 「もちろんッ! ……じゃなくてッ! もおおおおおだっからその脅されてる側のくせにたまに低音でマジなやつやめろよおおおおおッ! せっかくキャラ作ってきたのに、ビビったらリーダーに叱られるだろおおおおおッ!」

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