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第451話(sideガド)

 バカデビに案内されるがまま進むと、外れの外壁脇に到着する。  そこで待ち受けていたのは、似たりよったりな年頃だろうリンドブルム達の集団だ。  なぜか全員が男で、俺への敵意をバシバシに、尻尾をくねらせ唸っている。  中でも魔力の大きいやつが一人偉そうに岩場に座りつつ、俺を高みから見下ろした。 「ケッ、久しぶりじゃねぇかシルヴァリウスぅ。この俺のことを忘れたとは言わせねぇぞ」 「ンッンー? だからどの俺だよ? それって流行ってんのかァ〜?」 「「「えッ!?」」」 「は!? なにッ!?」  知らないもんは知らねーから、素直にそう言う。  するとニヤニヤと獲物を見る目で見ていた連中が、話しかけてきたリーダーっぽい奴とまとめて目を見開き、バッ! と立ち上がる。  だって覚えてねぇもんよォ。  嘘は吐いてない。  毎度思うけど、どうしてこう言うラスボス感を出したい連中は、こっち側に覚えてもらってると思ってんだァ?  ちょっぴり恥ずかしいぞそれ。  バカデビはほら見ろと責めるような顔をして俺を睨んだが、シカトする。  ざわつく周囲は置いといてタローの安否を確認する為に探すと、タローは体を縛られ、口を塞がれた状態で、檻の中に入っていた。  自力脱出は不可能だろう。  更に大人数で囲まれていたので、奪い取るのは難しい。  軍魔が民草を殺すのはよろしくない。  最強ではない秩序側の俺がそうすると、寝首を掻かれちまう。  殺しちゃ駄目でタローを守りながら、か。  そのルールでこの数の曲がりなりにも竜種を相手取るのは、俺だと無理だな。無茶は良くねぇぜ。  僅かな間に逡巡すると、この群れで一番強いだろうリーダーが、俺に向かって土魔法の岩を飛ばしてきた。 「あ、風、砕刃」 「砕くなよッ!!」 「馬鹿かァ? 砕くぜ。当たったら痛えもんな」  風属性魔法を使う俺がバシュッ、と相殺して砂粒にするとリーダーは地団駄踏んでキレる。  なるほど、コイツも馬鹿だ。  だが俺の魔法を見て奴らが一斉に竜化させた爪をタローの檻に向けたから、俺は両手を上げて無抵抗を示した。  ま、ちっとこれはマズイ。  人質ってのは、マズイ。  マズイと分かってやってきたが、不利すぎる。  動揺を表に出すことはないが、それなりに焦ってんのよ。俺ってば。  リーダーが顎をしゃくると、俺の目の前にまず一人の竜人が立ちはだかる。  俺とそいつを囲むように素早く包囲する竜人達は、土属性のフォレクスリールの魔力と相性のいい沼地の竜──リンドブルム。  風属性の俺のホームグラウンドは空だ。  だが森に囲まれた外れのここは、空を飛ぶにはここ特有の背の高い木々が邪魔で、スキをつかれる可能性が高く危険だ。  横目でタローの様子を見ると、タローはボタボタと大粒の涙を溢して泣いていた。  しかし短気な竜種の神経を逆なでするだろう大きな声は出さず、俺の言いつけどおり無抵抗でおとなしくしている。  おーおー、あんなに翼ワサワサさせちゃって、べそかきやがってな。  怖いな。でもよく我慢した。  ちびっと待ってな?  ガドくん長官は城を離れても長官だ。  部下はきっと助けるぜ。 「さぁお察しの通り、決闘だ。俺らはみんなお前がいけすかねぇ。昔っからお前は、俺達を見下してやがった。魚も投げつけられた」 『全員倒して自分の女を守ってみやがれ!』  ゴアッ! と砂埃を上げてリンドブルムが飛びかかるのを、俺は風を舞い上げ竜化し、受け止める。 『ア? 魚は喜べよ』  二匹の竜がぶつかり合う瞬間、ドゴォオォンッ!! と大きな打撃音が響き渡った。  魔族のタイマン習性──決闘。  敵意剥き出しの一人目が竜化して飛び掛って来ると同時に、俺も竜化して半回転したので、そのまま一気に尻尾を振りぬいて叩きつける。  さァて、麻痺毒ビシャビシャの尻尾の味はどうかねェ。  タローに飛んだら危ないから、死毒は使わねぇよう。  巨躯の重量を受けた地面が割れ、その場にクレーターができた。  四足で首が短く顎のでかい土色の竜が速さに付いて行けず、横腹に傷を負って踏ん張っている。 『グアァッ! まだまだッ! あの時の生臭い気持ちは忘れねぇぇぇえッ!』 『っと、チッ、じゃあ今度花とか投げつけてやるぜェッ!』 『そうじゃねェァァァァアッ!』  ズドォンッ! と重厚な地響きが鳴り、決着だ。  地面から突き出た岩の棘を躱して真上から踏みつぶすと、なにごとかを叫んだ一人目は、目を回して気絶していた。  これで一人目か。  周囲にはまだまだ竜人がいるので、一人ずつ相手にすると先は長い。  まぁ、タイマンなら勝てるけどよ。……やっぱ連戦は、ちと厳しいわなァ……。  連戦の先を予測して、俺は内心落ち着きなく次の相手に身構えた。

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