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第452話(sideガド)
決闘と銘打ったなら、それはタイマン。
律儀に一人ずつ飛びかかってくる竜を、俺は連続で相手にした。
麻痺らせて叩きつけて眠らせてもぎ取って刳り込んで、ちぎっては投げちぎっては投げしていく。
戦いを繰り返し、何時間だろう。
もうどれだけ連戦したかはわからない。
俺の体にはドンドンと傷がついて血が流れ、体力は消耗するし、魔力もなくなってくるしで、予想通りヤバイ展開だ。
森の隅っこに負けて目を回し竜人に戻ったリンドブルムが、山と積み上がっている。
「ハッ……」
それを全て相手取った俺は、半分くらいに減らしたところで、限界。
ついに竜化が解けて省エネモードの竜人に戻ってしまい、ガクッ、と膝をついた。
「んーッ! ンーッんンッ! ンッ!」
俺が膝をつくと、ガシャンッ、と金属が軋む音がする。
タローは泣きながらも俺の言うとおりにひたすら我慢して我慢して、ずっと助けを待っていた。
だが俺が負けたものだから、なりふり構わず檻に突進して駆け寄ろうとしたのだ。
当然それは檻に阻まれ、ちっちゃいタローはコロンと後ろに転がった。
しかし立ち上がれない体勢で尚も「ンーッンーッ」と、タローは泣きながらモダモダともぞつく。
急に暴れだしたタローに檻を見張る竜人は驚き、「しーっ! 後であめちゃんやるから静かにしてろっ!」と檻をガツンッと蹴り上げた。
「オイ」
──ドスッ!
「オワッ!?」
まったく、むかっ腹が立つぜ。
人様が満身創痍だってのに風の槍を飛ばさせるってぇのは、マナー違反だと思うんだよなァ。
慌てふためく竜人を一瞥し、知らん顔をした。
とは言え膝をついた俺は、それ以上をすることができないのだ。
この結果は、負けたことになる。
敗者は従わなければなんねぇのよ。
タローはまだ頭で檻の床をゴンゴンと攻撃していたが、そうすると竜人が怒り、俺がイラ立って無理をするとわかったらしく、また岩のように静かになった。
もちろん竜人が投げ入れた飴には、プイッとそっぽを向く。
フフン。タローはシャルの菓子で育ってるから、飴ひと粒程度では懐かねぇぜ?
リーダーは目を回している敗者の山を苦々しく見て、部下に指示を出した。
部下達は土属性の治癒魔法を使った後、薬草をペッタペッタと流れ作業のように敗者の患部に貼り付けていく。
ンじゃ、毒消し草も忘れずになァ〜。
土属性は治癒向きじゃねぇから、効果は薄いし毒は治らねぇよ。治癒向きなのは水。
「この鬼畜野郎! 皆頑張っていつかお前に目に物見せる為に、筋トレしたんだぞ! もっと丁寧に倒せよ!」
「クックック、俺今スッゲェ痛いんだぜ。だからヤダね。バカデビに優しくボコせって言ったのに、アイツらやけに本気で泣きながら向かってくるからフラッフラよ。ショージキ、俺は今膝枕で癒やされたい」
「ぐぬぬぬぬ……ッ! 女の膝枕かッ!? させねぇ! 俺らとあんま変わらない若造のくせに空軍長官になんてなって、いい気になるなよシルヴァリウスッ! 敗者のテメェにはなぁ──空軍長官を辞退してもらうッ!」
「そうだそうだ! 肩書でモテるだけだろやめちまえ〜! 街ブラデートすんなッ!」
「すんな! 当然のように俺が買ってやるよ的なやり取りをすんなッ! 爆ぜろモテ竜!」
「腐れイケメン!」
「恩知らず!」
「鳥頭!」
本当のことを言っただけなのに怒るリーダーを筆頭に生き残っている竜人達が、一斉に俺を罵倒し始める。
おーおー。
聞いてるフリするから好きなだけ言えよぅ。
まったく。リンドブルム魔族大体五十人で連戦を挑んで、やっと俺一人膝をつかせるって。
この肩書きの重さを知らねぇのかァ?
空軍長官に求められる戦闘力ナメ過ぎだぜ。
内心でごちて、呆れ返る。
要するに、お前ら五十人分の魔力量と持久力が俺一人にあるってこった。
竜種の魔族で五十人。
そのぐらいないと軍の頭は務まらねぇの。
後、俺はモテてはねぇよ?
娼館のマダムにお世話になるくらいで、俺の気まぐれについてきてくれる女はあんまいねぇかんな。
ガドくん今フリーだ。
膝枕はシャルにしてもらうんだ。当たり前よう。
「「「やーめーろっ! やーめーろっ!」」」
「息ぴったりィ」
盛大なやめろコールを受けてニンマリする。
それが目的ってわけか、いいだろう。
「……おうさ、イイぜェ? 空軍長官を辞めてやる。これでタローを返してくれんだろ? ン?」
「「「えっ!?」」」
不敵に笑って受け入れれば、やめろコールをしていた竜人共が一斉に目を見張った。
「なっ、そんなアッサリ、っじゃなくて! も、物分りがイイくらいには賢いみたいだな……!?」
「なぁんでお前らは俺が言うこと聞いてやるとびっくらこくわけよォ」
尻尾をゆらゆら。
特に否定もせず頷いてやれば、軒並み目を丸くして凝視するなんて。
ウシシ、失礼な奴らだな。
俺にとっちゃあ、一時的に頷くことぐらい、どってことはない。
タローを無事に連れて帰るのが先決で、城に帰ったらこっちのもんよ。
人質がいなきゃもっと暴れられるし、そもそも口だけで実際は辞めなきゃイイわけだ。
ニマニマと笑って悪いことを考えると、無意識に俺の目がスルっと蛇のように細くなる。
嘘は吐かない、ってことは、吐けるってことなんだぜ、諸君。
こういう屁理屈を教えたのは、だいたい悪いお兄ちゃん。大いに不遜であれ、ってな。
クク。悪い子な俺を愛してくれよ?
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