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第462話(no side)
愉快なパーティーの一人であるシャルは、到着してすぐ、姿を消したままガドの背から飛び降りた。
そしてリンドブルム達に気づかれることなく進み、娘の囚われた檻に辿り着く。
アゼルが動きを封じたリンドブルムを選んで外側から近づけば、容易かった。
影縛りは術者以上の魔力がなければ破れない魔法。
アゼルならば、実質一度かかれば行動不能だ。
だとしてもシャルの動きは人間だということを考えれば、異常に素早かった。
無駄もなく、スキルの行使に淀みもない。
普通、魔力は魔族より少ないのが人間だ。
部分的な身体強化など、魔法陣スキルで鍛え上げられたシャルは、魔力の効率的な使い方がすこぶるうまかった。
省エネタイプ。
戦闘に優しいエコロジーなシャルである。
湯水のごとく魔力を使うアゼルや、魔法を使わなくてもフィジカルお化けなガドより、効率に関しては優っているかもしれない。
他の種族に比べて器用な、人間ならではだろう。
もちろん魔族と正面からのタイマンで勝てるリューオは除外だ。
彼は公認で人間詐欺である。
シャルは犇めくリンドブルム達に触れられることもなく、魔法にかかっていない者にも気付かれずに、そっと檻の前でしゃがみこんだ。
するとこちらに気がついたタローが目を見開いたので、唇に指を立てる。
「!」
「しー……。怖かったろう? よく頑張ったな。後少しだけ、我慢できるか?」
声を潜めて優しくそう言うと、タローは懸命に唇を噛んで嗚咽を我慢しながら、何度も頷いた。
涙は我慢できないようでこれまで以上に決壊しているが、幼児のラストスパートとしては上等だ。
シャルはタローに少し後ろへ下がるよう、伝える。
スキル行使中、足音や声は聞こえない。
気配察知スキルを持つ者には聞こえてしまうので小声だが、リンドブルム達は持っていないようで、誰もシャルには気がつかなかった。
「あー……モテねぇからって野郎に、いいこと思いついたぜ。こんだけいるんだ。もうお前ら同士でくっつけばいいだろォ?」
「脳みそにカビ生えてんのかトンチキが! リンドブルムの雄はガタイがいいんだよッ! 俺らは幼年趣味だッ!」
「不可視、切断」
フォン、と魔法陣が現れる僅かな反応が、丁度ガドの飄々とした煽りでかき消される。
おかげでシャルは、うまく見えない魔法陣を二枚形成できた。
その頃にはシャルの周りのリンドブルムはみんな動きを止め、目を見開いているだけだ。
ものの見事に僅かに瞳を震わせることしかできない、ただの木偶となっていた。
ガドの掴みどころのない会話に噛み付くグルガーは、それに気づかない。
仮に気がついていても、タローの奪還を阻止することはできないだろう。
動けるものがシャルに飛びかかるより、彼が娘を抱き上げて身を隠すほうが、ずっと早い。
バツンッ、と檻の鉄柵が綺麗に切断される。
それと同時にシャルがなでるように鉄柵に触れると、ただの鉄の棒になったそれは、落下音をたてる前に召喚魔法域へ消えていった。
魔法陣の効果を重ねることや、順に魔法を空白時間なく使用すること。
魔力がブレたり混ざる可能性があるのにも関わらず、システムのような正確さだ。
人間とはいえ、真面目で勤勉なシャルの丁寧さありきだろう。
この愉快なパーティーで、彼には一切チートと言われる能力はないのだ。
使える魔法陣の膨大な種類は、強制。
多少多めの魔力量は、強引に引き上げられただけ。
残る剣技も体術も魔法も、ひたむきに鍛錬した結果だった。
故にシャルは正面から戦えば負けてしまう上に、属性魔法も使えない。
それでも勤勉故の記憶力と経験から基づく動きは、十分馬鹿らしい。
職業がお菓子屋さんでは、絶対に使用しない戦闘力だ。
戦うお菓子屋さんなんて聞いたことがない。
シャルの周りは魔族だらけで、唯一仲間の人間は勇者。
基準を破壊するお馬鹿な天才に囲まれている為、常識のボーダーラインがひっちゃかめっちゃか。
しかしこの場の誰も、本人すら全く気がついていないが──彼もまた異常な人間なのだ。
ガドが連れてきた愉快な仲間たちは、実はトンデモ夫夫である。
類友で概ね間違いない。
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