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第464話

 ◇  茜色に染まる空の下。  アゼルの先触れにより待機していたフォレクスリール担当の駐屯陸軍が、拘束され自分のちぎられた尻尾を抱えるリンドブルム御一行を、ドナドナと連行していく。  今でこそ尻尾を抱えるだけに留まっているが、本当は大惨事だったのだ。  女装騒動から大人対応で嫉妬や暴走を抑えている(と本人は言っていた)アゼルでも、尻尾だけでは許せなかったらしい。  まさに死屍累々だった。  ポイントは、ライゼンさんがなにかに使えるから、と言って持たせてくれた携帯回復薬のフェニックスの尾。  結晶化処理を施さなければ、引き抜いてから一日しかもたない。  それを置いておいても、人間以外なら瀕死状態から一度だけ蘇生できる優れものなのだ。  人間は弱すぎるので、半回復くらい。  元々の回復力を極限に上げて修復するからな。  しかしその貴重なものを、あろうことか魔王様、大惨事に昇華した。  まぁその、動けないリンドブルム達の表面を、薄皮より少し多めに削ぎ落としてだな……切り傷だらけ、うぐぐ。  見かねた俺が流石に止めると、アゼルはライゼンさんの尾羽を使用して、彼らの怪我を治してあげたのだ。  そしてもう一度、全員ちぎった。  宣言通りにきちんとちぎった。治したのに。  俺が止めなければどこまでしていたのやら。  ライゼンさんはその為に渡したワケじゃないと思うんだ。  もちろん俺はライゼンさんの特技がなんなのかなんて知らないので、使用方法が多岐にわたるとは気づいていない。  困ったものである。  血なまぐさいのはよくない。  それにアゼルに先手であんなことをされたら、俺が説教をする分が残っていないじゃないか。  俺だって物申してやりたかったんだ。  人の子供に手を出すなんて酷い。  友人を虐めるのもとんでもない。  だがオーバーキルを先にされてしまっては、かわいそうになってしまう。  ……この現象デジャブだな。  グウェンちゃんの時も先手で叩き潰されて我慢した。  良心の呵責で、俺はいつも拳を収めるのだ。  閑話休題、  いや回想終了。  そんなわけでリンドブルム達を陸軍に任せた夕焼け小焼けの現在は、おうちへ帰るだけだ。  泣いていたタローはいつもどおり俺の肩車にご満悦で、ニコニコとしている。  その目は真っ赤だったが、安心感たっぷりの表情は檻の中で満ちていた不安を欠片も残していない。  鞭担当のアゼルがお仕置きしていた時も視界に入らないようにしたので、トラウマも残っていないようだ。  ──で、そのアゼル。 「アゼル、そろそろ俺がやばくなる」 「…………後、三口。いや五口、八口……十口だけ」 「ふへへへー、まおちゃんかぷかぷ?」 「そうだぜ、十カプで手を打ってやる……!」 「子供の前で野外十カプは勘弁してくれ」  現在の彼は、百名前後のリンドブルムに影縛りをかけ多少血が減ったので、今すぐ血を吸わないといけないと言い始め、俺の指に食いついているのだ。  気をつけながら吸っているとは言え、もうすでに指先がジンジンしている。  後十カプもかじられたら、右手が感じて城へ帰るまで挙動に苦労するじゃないか。  無垢なタローが「ねーねーしゃる、まおちゃんなんでかぷかぷするの?」と小首を傾げて俺の髪をぽすぽす叩く。  ええと、そうだな……献血だな。  これ以上敢行されて毒に負けなければ、とても健全な行為だ。

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