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第490話

 さて、仕切り直してテイクツー。  俺に抱きついていたキャットは、顔や態度こそ、高圧的な悪い癖が出ている。  けれど俺の服の裾を握りしめているあたり、純情で乙女な部分が滲み出ていた。  そのかわいさがゼオには伝わっていないのが、悔やまれるな。  当のゼオは一体全体なにが始まるんだと、完全に無の状態になっていた。  別名諦めとも言う。  ジーっとキャットに見つめられるゼオ。  ゼオを見つめるキャット。  見つめるキャットは、徐々に頬が赤くなっていっている。  それを戦々恐々としながら、俺はゴクリとつばを飲み見ていた。  二人の様子を見守っているのだが、予想と違うので焦っていたりするのだ。 (なん、う、うちと逆なのか……!?)  うちのアゼルは黙ってじっと見つめるだけで、怒っていても拗ねていても、真っ赤に色付いていく。  それをかわいいな、と思う俺も、いつもの表情が緩んでいき、へらりと笑ってしまう。  それが好感度検査と言う名の秘技、〝見つめ合う〟の筈。 (……うん……? まさか、全男子共通では、ない、のか……? そんな馬鹿な) 「……っ、ぅ……」 「キャット副官。今なら視線で人間が死にそうな眼光になってますよ。俺がなにかしたなら、まぁ、納得したら謝りますから、そろそろ帰っていいですか?」 「ぅひ……だ、駄目だぁ……ッ!」 「なぜ」  密かに理解を得て一つの気づきを昇華した俺と違い、ゼオは未だに理解を得ていない。  なぜ見つめられているのかわからず、帰りたいと告げる。  もちろんそれを許すキャットではない。 「あー……なるほど。さっき避けた時、頭ぶつけてましたよね。怒ってるんですか。それは、すみません。グリフォール魔族が襲いかかって来たら、迎撃以外避けるしかできないんで。俺」 「怒っているに決まっているだろうがっ! じゃなくて、怒っていないがそんなこともないと言うか……! あぁックソッ、貴様頼むから死んでくれ! 心臓が弾け飛びそうだッ速やかに死んでくれッ!」 (意訳:目と目が合う瞬間好きだと気づいたのでマジで死んじゃう五秒前な俺) 「は? ……どうしろってんです」  うん。中身を知っていると、わかりやすいくらいMS5なキャットである。  一生懸命告白をしようと照れているキャットを、俺は固唾を呑んで見守っている。  キャットの応援に来ただけで、適度な手出しというのは、難しい。  こう、茶々を入れてゼオにプレッシャーがかかったり、キャットが恥ずかしい思いをするのは、よくない。  本当は通訳をしたいのだが、萎縮して例のモードに入っているキャットは限界だ。 (ここに恥ずかしさを足すとかわいそうだからな……俺は背景に徹しよう。うんうん)  そう思っていると、場が動きを見せる。  好感度検査の結果が思わしくないと悟ったキャットが、それはもう熟れたトマトのような顔色で、クッと覚悟を決めた。  俺の服の裾をしっかりと握りしめて、若干涙目になりつつ、唇を震わす。 「お、俺は、俺は……ッ!」 「ん? はい」 「俺は貴様がす、すすっ、す、っううっ」 「……あー……」 「好きだぁぁぁぁぁぁあッッ!!」 「ごめんなさい」 「ひゅぅんッ!!」  年単位で想い続けた相手に、ようやく素直な言葉を伝えられた渾身の告白が──瞬殺玉砕。  あまりの衝撃が耐えられなかったのか、キャットは俺の腹に、攻撃かと思う威力の抱きつきを繰り出す。 「ゴフ……ッ! きゃ、キャットーっ!」  ドグスッ! と突き刺さり、俺はもう何度目かの内臓噴出を耐え、どうにかこうにか抱きとめた。  キャットはズリン、と腹にしがみつきながら地面に膝をついて、俺の腹筋でしくしくと涙を拭い始める。  ぐっ、こ、腰が……ッ!  昨日の夜にバックで仰け反ってばかりいたツケが、今ここで……ッ!

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