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第491話

「ひぇぇんフラレましたぁ……っ! シャル様ぁ無礼をお許しくださ、っふ、ぶぇぇぇんっ」 「よ、よーしよーし、頑張ったな。とても緊張していただろうに、よく言えたじゃないか……! 失恋は辛いな。よーしよーし……! 遠慮するな、たくさん泣くと良いっ」 「うひゅぅ、っぐすん、ふぶぇっ! うぇぇんっ!」  緊張もなにもかも吹き飛んだキャットが、存分に泣きながらすがりつく。  それを抱きとめた俺は、オロオロとしつつもどうにか慰めようとして、彼の頭をワシャワシャとなで繰り回す。  俺は慰めるのが下手くそだ。  相談をよく受けるが、うまく返せた試しがない。  フラレてしまいこんなに泣かせたのだから、余計なことを言ってしまったかも、と悔いてしまう。  泣き喚いたキャットは鼻水をズズーッと啜りつつ、上目遣いに潤んだ瞳で、捨て猫のようにゼオを見つめた。 「な、なんで駄目なんですかぁっ? 男だからですかぁ……っ! うう、せいてんかん、するますぅ……!」 「いや。と言うか誰だ、このぐだぐだメソメソしているのは。バグってますか」 「気持ちはわかるが、正真正銘キャットこと魔界軍空軍長補佐官、キャレイナル・アッサディレイア本人だ」 「なぜ」 「んんと、端的に言うとだな……威圧感のある人や尊敬する人の前だと、緊張してしまう。なので、さっきみたいな話し方になるらしい」 「ふぇ、うひっ、ぐすん、筋トレしたのにいぃぃ……っ!」 「嘘だろ」 「現実だ、直視してくれ」  キャットはすっかり、鉄壁の緊張モードが露呈する程のショックを受けている。  今まで知らなかったキャットの本性を知り、ゼオは珍しく、瞬きをパチパチと多めにした。  これは本気で驚いているな。  俺も当時は本気で驚いた。 「ゼオ、その、……本当はとってもかわいいんだぞ。……だめか?」  そんなゼオに一縷の望みがあるのでは、と考えた悪い男。もとい俺。  知られざる一面で胸キュンしてくれないか?  こんなにかわいいんだぞ? だめか?  少しも希望がないのか。  それとも好きな人がいるのか。  目は口程に物を言うな状態で、キャットと同じく心持ちうるうるとゼオを見つめる。  するとそれを的確に受け取ったゼオは深く息を吐いて、自分の髪をワシャ、と掻き回した。 「二人揃って、そんな捨てられた斑ネズミみたいな顔しなくても……俺が悪者みたいでしょうが。お断り、別に悪気ないですよ。キャット副官も嫌いじゃないです」 「「!」」 「同時に同じ表情をしないでください」  無表情なゼオが告げた言葉に、俺とキャットがキランッと瞳を輝かせる。  嫌いじゃないなら、もしかするとチャンスがあるかもしれない。  そう思ってしまうのは仕方がないだろう。瞳もキラキラしてしまうぞ。  ぐすん、とキャットが鼻を啜った。  希望を見て涙は落ち着いたようだが、擦れた鼻が赤くなっている。  俺がわしゃわしゃなでたせいで、髪も乱れていた。むむ、これはマズイ。  急いでせっせと整え、少しでもキャットをかわいいと思ってもらえるように、頑張ってみた。  俺が乱してしまったからな。  髪型でフラれたら戦犯過ぎる。

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