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第501話
──さてさて、一方その頃。
当人である俺は、キャットの告白予行練習がとんでもない勘違いを生んでいるなんて、予想もしていなかった。
アゼルがもう二度と飲まないと誓っていたアルコールに動揺のあまりうっかり手を出しているなんて、もちろん知るよしもない。
今日も今日とて食事と入浴を終わらせ、平和に娘と自由時間を満喫していた。
幼いタローの就寝時間は早いのだ。
それに合わせて、俺たちは食事の時間が早めだったりする。
「おとうさんっ、今日はなにをしていたんだ〜?」
「お父さんは今日、朝からお仕事をしていたぞ。タローと一緒にフロランタンを作って、パパの分は二人で包んだ」
「ふふん、ふふーん! そうかよう、えへへ……! 別に嬉しくなんかないよっ! おれは頑張っておしごとをしていたよ〜っ。おしごと、行きたくないんだぜっ。でも頑張ったからね、あのね~癒しがいると思うの〜」
「ふふふ。ようし、それじゃあお疲れ様のパパを、お父さんがいっぱいなでなでして、ぎゅーってしよう。今日もよく頑張ったな。パパは凄い、偉い」
「むひっ、きゃ〜っ! あったかい~あははは〜っ!」
ぎゅう、と腕の中に閉じ込めて、お疲れ様の労りハグだ。
アゼルの冬用の赤いショールを羽織ってパパ役をしていたタロー捕まえ、翼の付け根や頭をワシワシとなでる。
タローは嬉しそうに悲鳴を上げて、キャッキャとはしゃいで喜んだ。
元々は肩車が好きだったんだが、今は抱きしめられるのとなでられるのが一番好きなのだ。
そのあたりはガドに似てきたのかもしれない。
「ぎゅ~」
「ぎゅ~っ」
そうしてフカフカのカーペットに薄い布を敷いておままごと中の俺たちは、楽しくイチャイチャ中である。笑うところだ。
おままごとの道具は、もうお菓子屋さんで使わなくなった調理器具や食器がメイン。
他には木っ端を削って俺が手慰みに作った木製のテーブルや椅子が、主にいつものおままごとセットの内訳だった。
おっと。二人でコツコツ集めたものもあるぞ。
庭を散歩した時に拾ってきたどんぐりや小石なんかを、食材としてエア調理したりする。
空軍の竜人三人組から貰った抜け鱗をタイルにして、カラフルな床を作って遊んだりもした。壁がないが、子ども部屋なのだ。
それをどこからか聞きつけたガドから貰った抜け鱗は、綺麗に磨くと鏡レベルの輝きを持ってしまった。
タロー専用のドレッサーに改造したのはいい思い出だ。
アゼルの抜け毛を集めて防寒防暖防魔法攻撃なとんでも座布団もある。
魔族がかなり少ない人間国の市場の価値に換算すると目を剥くようなおままごと道具だが……これが結構、楽しいのだ。
俺は小さい頃おままごとをした記憶がないので、タローと遊んでいると新鮮に感じるしな。
存分に抱きしめて揺れた後、腕の中からタローを解放してやる。
するとタローは機嫌よく翼をバサバサと戦慄かせ、にこーっと満面の笑みを浮かべた。ご満悦らしい。
けれどすぐに腰に手を当てて、タローの正面で正座する俺に、ふふんと胸を張ってみせる。
「こんなのじゃ足りないぜ〜っ? もっといっぱいあまやかすっ。おとうさんは、今度はあーんして〜。今日のご飯はなにかなっ?」
「あははっ、足りないか。それじゃあ仕方ない。あーんもしよう」
「へへ、べつにうれしくなんかないぜっ。しかたないから、されてあげるの~」
「そうかそうか。今日のご飯はな、どんぐりご飯だ。はい、パパ。あーん」
「うむ、あーんなんだよ!」
どうやら、ハグだけでは足りない、という時の旦那さんのパターンらしい。
食卓の前であーんと口を開ける旦那さんに、お椀に入れたどんぐりをスプーンですくうフリをして、手ずから食べさせた。
タローはもぐもぐと食べるふりをする。
そして胡座をかいてむすっとして見せてから「むふふ〜悪くなーい!」と笑った。
そう、お察しのとおり──タローはアゼルの真似をしているのだ。
両方が男である俺たち夫夫に育てられているタローにとって、お母さんは馴染みがない。
なのでおままごとではいつもアゼル役の〝パパ〟か、俺役の〝お父さん〟。たまにタロー。
ライゼンさんをママと認識しているのは、俺たちがライゼンさんをママゼンさん扱いをしているからだった。
基本的に、タローのおままごとではお母さんがいないのである。
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