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第503話

 カーペットの上にへたり込みながら、どうしたものかと悩む。  けれど良く考えれば、アゼルが狼姿でも人型でも、中身は変わらないはずだ。  中身がアゼルなのだから、いつも通りに接してあげればいいかな。  今日はきっとたくさん疲れて帰ってきただろうし、たまには本来の姿に戻りたい時もあるだろう。  緩く尻尾を振りながら俺の様子を伺っている子犬の鼻先を、カリカリと掻いてやる。  少し落ち着いてきたので冷静に考え、細かいことはいいかと思うことにした。  尻尾がブォンブォンと速度を増している。  こういうところもアゼルだな。 「うん。おかえり、アゼル。お疲れ様。さて、どうしてそんなにしょげているんだ? そんなに今日は大変なことがあったのか?」 「ウォン、アオン……ウァ、くぅん……」 「わぶ。その姿で俺を舐めると、夜着が一瞬で湿るんだが……」 「! ヴゥゥ……! ウォンッ」 「? どうした? また風呂か?」  切り替えて笑いながらよしよしとなでていると、アゼルは急にハッとした様子で顔を上げる。  そして俺の夜着の裾を噛み、立ち上がるように促してきた。  ふーむ。なにやら気に食わなさそうに唸っている。  アゼルは鼻先で背中を押して、洗面所への扉へ俺を押しやった。  なにかあったのだろうか。  しかしそれに関して、なぜ俺を風呂に入れたがるのやら……?  もう風呂は入った後なので再度入浴させても意味がない気がするが、大人しく洗面所の扉を開き、中に入った。 「ウ、アゥ」 「ん?」  けれど入り口と違い扉が小さいので、アゼルはガッ、とつっかえる。  頭しか入れなかったアゼルは耳をペタリと倒して、「どうしたらいいんだ?」とばかりにくぅん、と鳴いた。  ちょっとかわいい。  かわいいが、着いていけないのが寂しげだ。  小さくなればいいと言えば、嬉しそうにウォン! と吠える。  そして大型バイク程の大きさに縮小し、洗面所にのっしりと入ってきた。  人型になれば万事解決なんだが……小さくなればと言ったから、そのまま小さくなったのか。 (うーん……やっぱり変だぞ……)  非常に素直モードで思考回路もゆるゆるなアゼルを見て、顎に手を当てる。  思ったとおりに行動して甘えてくるし、判断力がポンコツ化中だ。  この状態のアゼルには、覚えがあった。  それはいつかのナイトデートでうっかりやらかした時の、デレデレ甘々なアゼルのことだ。 「っ、と、」 「グルル、アゥ、アゥン」  せっつかれるまま夜着のボタンを外し終えると同時に、ドン、と突進される。  俺はあえなく、バスマットの上に押し倒されてしまった。  特に攻撃的な痛みを感じないあたり、アゼルらしい手加減だ。  アゼルは爪を引っ込めたプニプニの肉球で俺の肩を押さえ、倒れ込んだ腰を跨ぐように、マウントポジションを取った。 「ん、んん」 「ヒュゥン、ウゥ〜」 「あはは、くすぐったいぞ、アゼル」  尻尾が凄い勢いで振られている。  喉を鳴らして甘えたような鳴き声を上げ、アゼルは俺の首筋をベロベロと舐め始めた。  首筋に顔を埋められ、至近距離でフサフサの手触りの良い毛皮が揺れる。  その距離から香る、独特の香り。  決定だ。  困ったように自分の眉が垂れ下がるのを感じながら、俺はくすぐったさを耐えつつ、アゼルの首に片腕を回して首元をなでた。 「アゼル──お前、お酒を飲んだな……?」 「? くぅん」  かわいらしく首を傾げても駄目だ。  フルーティーなアルコール臭が証拠だぞ。 (二度と飲まないと誓っていたので事故だろうが……)  俺の予想はしっかり命中である。  酩酊しているから、甘えんぼさんになっているのだ。  しかし俺は、酔ったアゼルは物凄く厄介だと言うことを知っている。  なので、どうやってこの状態から抜け出そうか、と必死に思考を巡らせた。  なにがそんなにまずいって、それはアゼルが俺のことをとんでもなく愛している、ということでな?  それを普段はツンで調和しているから節度ある関係を保っているが、今はデレデレのドデレ状態だろう?  となるとアゼルはそのデレを惜しみなく俺にぶつけてくる。  そして俺は、アゼルを拒めない。  最終的には許してしまうくらいには俺も愛している。  要するに、だ。  このままでは獣姦されかねない、と言うことである。……誰得案件なんだろうか。

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