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第504話
「ン、ちょっと待て、んん……アゼル、アゼル、言葉がわからないから人型に……、っん、」
「クゥ、クゥン」
はだけた胸元にフサフサと触れる毛と、首筋を舐める大きくて熱い舌がこそばゆい。
擽ったいだけで感じていないぞ?
まだ大丈夫。まだ、大丈夫だとも。
あまり乱暴に押し退けたくはないので、心持ち強めくらいの力でアゼルを押し返す。
が、ちっとも退けてくれる気配がなかった。
『うぅ〜……上書き、うわがきだ……シャル、告白なんて、俺のほうがじょーずにできるんだぜ、馬鹿野郎……好きです、付き合ってくだひゃい……? う、うぅん、おれはしゃるがすき……』
なにを言っているのかはやはりわからないが、終始甘えているようなのだ。
「ううん、困ったな……全くわからない。それからアゼル、下まで脱がせるのはやめてくれ。誰得案件だと言っているだろう? せめて元に戻ってくれないか? それから抱いてほしい」
『わっわからない? なんで、なんでんなこと言うんだっ? 俺はお前が大好きだって、なんでわからねぇんだ?』
「え、と? あ、アゼル?」
『ふっ……うぅ〜……やだぁ〜もうぜったい、おれはこのままだぜ……っふん、ふーん。うぅ〜……!』
「な、なんで拗ねているんだ……っ? って、あ、ちょ、ちょっと待て、待って待って……っ!」
アゼルはあぐあぐと耳を垂らして拗ねながら、なにかを訴える。
そんなアゼルにわからないと伝えると、なけなしの下着まで剥ぎ取られてしまった。
(ど、どうしてわからないと言っただけでそんなにしゅんとして拗ねるのかも、わからないぞ……!)
『ぅぐ……俺はお前が好き。俺はお前がとても好き、好きなのに、好きなのにわからねぇの、すねる、すねるぜ? シャル、好き』
「ワンワン言われてもやはりわからないし、その、俺のパンツを返してほしい……!」
まさか〝パンツを返してくれ〟なんてセリフを人生で言う体験をするとは。
狼に押し倒されて夜着の上を羽織るだけの姿にさせられた俺は、無防備な下半身を、足を広げる形で押さえられている。
これはちょっと、いやかなり、物凄く──恥ずかしいポーズだ。
いわゆるM字開脚である。
しかも浴室のマットの上で……こ、困る。
「〜〜〜っ! もう、この酔っぱらい魔王さんめ……っ。呑気にもふもふしている場合かっ?」
『ふふん、俺は酔ってねぇよう……? ふふ、ふふーんふん、シャル、真っ赤なのかわいいな。かわいい。ふへへ……いちばんだぜ、いちばんだーい好きー……シャル〜……』
「ふっあ、舐めるなっ……! うぅ、アゼルっ、いい子だから言うことを聞いてくれ……っ」
あぐあぐと甘噛みと舌で舐める攻撃を受けつつ、懸命に背を丸めて腕を伸ばす。
痛くない程度の抵抗としてアゼルの頭を押してみても、まるで効いた様子がない。
むしろ臍や腹筋から際どいところまでを、ペロペロとひたすらに舐めている。
「アゥ、ウゥ〜、ン」
「ひ、っあ、ず、ズルいぞっ、かわいい顔でモフモフされたら、うぅ、っ」
その頭がモッフモフの相変わらずナイス毛皮なワンコなので、俺はどうも癒されかけてしまうのだ。
(くそう……俺が唾液でヌルヌルなのに、お前は呑気にフカフカじゃないか……っ)
もどかしいような、悔しいような、複雑な気持ちになってしまった。
表情の読めない狼アゼルが全力でニヤニヤデレデレとしていることなんて、知る由もない俺である。
噛み噛みの告白も、口癖のような好きも、俺に愛の告白を理解されなくて嘆く様も。
残念ながら、全く届いていなかった。
「もう舐めてもいいから、ふ、普通に抱いてくれと、言って、ぅ、っ」
「クゥン」
胸元を舐めるアゼルの舌が乳頭を愛撫するため、俺は必死にアゼルに元に戻るよう懇願する。
もしかしたら事故じゃないのかも。
やはりやけ酒してしまう程、一日の接待で嫌なことがあったのだろうか。
とは言え、今日は帰ってきたらたっぷりと労る約束をしたが、性的に労るとは言ってないぞ?
だって昨日の今日だろう。
身がもたない。
にっちもさっちもいかない俺が耳の付け根をこしょぐって話を聞けとアピールしても、アゼルは一向に顔を上げないのだ。
子供の手のひら程度の大きさがある舌は、どんどん下肢へむかって下がっていく。
「ひ、ん……ッ!」
不意に肉厚の舌に会陰から裏筋を舐め上げられ、思わず引き攣った声が漏れた。
ゾク、と肌が粟立つ。
開発により感度をあげられた俺は、それだけでも感じてしまう。
俺が喜んでいると思ったのか、アゼルが際どい陰部を執拗に舐め始めた。
「ぅ、あ、ん…ん……っ」
急所を何度も刺激され、牙が擦れる感覚が快感を重ねる。
俺を舐めるアゼルの舌は体が覚えていた。
けれど今そうしているのは、狼の姿のアゼルなのだ。
普段よりずっとイケないコトをしている気分にならざるを得ない。
アゼルが触れるから仕方ないんだが……。
動物と言う無垢な存在の行動に快感を感じ始めてしまう自分が、なんだか罪な男に思えてブルリと身が震えた。
嫌じゃないから困り果てているだなんて。
(そんな体にしたのも今の現状も、全てアゼルのせいだぞ……!)
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