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第506話※微

 それからどのくらいが経過したのか。  俺は只管ご機嫌なワンコに、抵抗虚しく嬲られていた。 「ん、っ……く、アゼル、俺は……んっ、て、照れている、っ照れているんだ……っ!」  耳まで赤く染まった俺は、懸命に自分の感情をありのままで伝える。  快感に流され淫靡に火照る肢体は、しっとりと汗ばみ、呼吸は荒く乱れていた。  なにがここまで恥ずかしいのかは、自分でもよくわからない。  昔は抱かれる姿を見られるのは恥ずかしかったが、慣れた今は、明るい場所で抱かれてもそれほど羞恥を感じなかったはずだ。  恥ずかしいけれど、それすら興奮のスパイスになる程度の羞恥である。  けれどこの状況は、凄く恥ずかしい。 「も、う……っ恥ずかし、いっ……ん、ひ……っぁ……、くっ……っ」  これをされるくらいなら、アゼルがしてほしいと言うことを、なんでもしてもいいと言いたいレベルだ。  女装だろうがSMだろうが、野外だろうが剃毛だろうが、あれやらこれやらと受けて立とう。 (だからこの、俺の後ろを中まで舐めるというのは、か、勘弁してくれ──!)  声を大にして、心で叫ぶ。  だ、だってこれは、なんだか凄く、凄ーく恥ずかしいんだぞ……!  顔から火が出る勢いで羞恥に焼かれる小さな俺が、脳内でバタバタと走り回った。  嫌なのかと尋ねられると嫌ではない。  気持ち悪いかと尋ねられても、気持ちいいとしか言えない。  しかし嫌じゃなくて気持ちがいい自分が、余計に恥ずかしいのだ。  アゼルが入口を解すように舌を抜き差しするたびに、クチュ、クチュと真っ赤な舌と白い牙の隙間から、いやらしい音が鳴っていた。  不意にチュ、と軽く吸われると「あっ」と軽率に甘い声が漏れてしまう。  ほら見たことか。  いいか? 冷静に考えるんだ。  俺は今、魔物形態になった旦那さんに直腸の入口を口で愛撫されて、しっかり感じる奥さんなんだぞ?  どう考えても、三百六十度卑猥な存在になってしまっているじゃないか。 「そんなのだめだっ! お、俺は夫と娘がいる、立派な、んっ……ぁ、っ、あ、アゼルぅぅ〜……っ!」 「アゥン」  混乱する俺の言い分は当の夫が機嫌よくひと鳴きし、一蹴された。酷い。酷すぎる。  浅いところばかりを攻められ続け、焦れた内部がうねる。  普段は指でもっと奥を好きなだけ感じさせてもらっている俺は、物足りなさすら感じていた。  けれどめげずに硬い意思を持って、口だけはアゼルを宥めるべく、懸命に抗う。 「ふ、あ……っ許してくれと、言って……っ、ひっ、あっ、ぁん……!」 「ガウゥ」 「あああ違うっ違うぞっ、喜んでないからなっ? 断じて今のはそうじゃっ、ん、ンン……っ」 「ウゥン? グルル」 「ぅあッ……! き、気持ちいいのは認めるがっ……、人型ならシてもいいって言ったんだ……っそしてそこはもう、もういいだろう……っ!」  十分すぎる程解され、グチャグチャと柔らかく蕩けきった後孔がきゅんと戦慄く。  アゼルの持ち前の執拗な愛撫により、蜜を垂らす肉茎は、完全に勃起させられていた。  それでも、まだ負けていないんだ。 (た、例えHPがレッドゲージでも、アニリングスからの獣姦は、変態を極めすぎている……!)  こら、手遅れだとか言わない。  理性がある限りトロトロに感じていても、俺は抗って見せるとも。  しかし本音を言えば、ここまでされたらやはりちゃんと抱いてもらいたい。  だから早く、アゼルには人型に戻ってほしいのだ。  できれば酔いの覚めた正気の人型に。  けれど前回飲んだ時も、たった一本のワインで一晩は酔いが覚めなかったので、可能性は薄いだろう。  それに何度も要求を訴えているのに、アゼルはなにが不服なのか、頑なに人型に戻らない。  言葉の大切さを痛感する一幕だ。  言葉が通じると言うのは、奇跡的だな。 「ふぁ……ッ」  許してくれアゼルっ、と泣きついてしまいそうな心情の最中。  不意にチュプ、と襞をまさぐっていた舌を引き抜かれ、無防備な声を出してしまった。  もしかして、ようやく俺の言葉が届いたのかもしれない。  眉をハの字にし、微かな希望を持って上目遣いにアゼルの様子を伺う。  持ち上げられていた背中を床におろしてもらえると、未だに恥ずかしい格好だが、羞恥心は少しマシになった。 「あ、アゼル……?」 「ウォン」 「ぁえ……っ?」  アゼルは俺の身体をくるりとひっくり返し、うつ伏せにして浮かれた吠え声をあげる。  モフモフだが重たい巨体を用い、俺を気遣いつつもしっかりと乗り上げた。  そのまま背後から後頭部に鼻先を擦り付けられる。これは甘えているのだ。  あぁ、闇魔力の拘束がいつの間にやら腕を確保しているな。  俺の腕は自分の背中で一纏めじゃないか。身動きが取れないぞ。 「……。……ええと」  完全にまな板の上の鯉状態にされた俺の下肢に、覚えのある熱が充てがわれた。  ヌルリと滑る、滑らかな凶器。  尻の割れ目を伝って、透明な液体がポタ、とマットに落ちる。  そうだな、周到過ぎるくらい解したもんな。  ちゃんと俺を感じさせたしな。  未来を思って少し縮んだぞ。  だけどそれも、二人で本懐を遂げるためには必要なこと。  ──で、だ。  アゼルと言えば、アレも魔王級でお馴染みの俺の尻に優しくない一物の持ち主である。  それはもちろん、人型の時と同じ様に俺を抱こうとしている、この酔っぱらい魔王様のアレにも当てはまる訳で。  そしてアゼルは現在、人型より大きな狼なのだ。  サァ、と青ざめる。  一瞬で血の気が引くとは、このことか。 「ぜ、絶対に無理だ! それを挿れるには肉体改造が必要だ! に、ニリットルペットボトルは本当に無理だぞ!?」 『ん〜? いつもしてるだろ……うんん、だいじょうぶ、しゃるはがんじょう……』 「あぁぁアゼルっ、みっ認めるからっ、俺はヒョロガリの貧弱男だっ! 白状するっ! 筋トレの成果は、タローが生まれてから停滞中で……っ!」 (正直普段の時間の殆どをタローと一緒に遊んだりしているから、ヒョロくなったぞ──!)  濡れて緩んだ後孔を滑る凶器の挿入を、どうにかして回避したい。  俺は断固として認めなかった貧弱宣言を、初めて受け入れたのだった。

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