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第523話

 俺を殴ったリューオが気を取り直してヤンキー座りでしゃがみこみ、お馴染みの凶悪な眼光でイズナを睨みつけた。  その姿はさながら、番長のメンチ切り。  中身は心優しい勇者なのだが、リューオとて空腹な上にユリス不足だ。心の余裕は霞同然だろう。 「おいシャル、このクソイタチ置いていくぞッ。そいつ飯が目当てなだけで元気ハツラツだろッ天然馬鹿野郎」 「イズナ!」  けれどリューオは行き倒れの真似をして食料をたかったのが、気に食わなかったようだ。  正々堂々かかってくるか真っ向から頼めばいいのだと怒り、イタチ発言を訂正するイズナにシャーッ! と威嚇している。  不機嫌な猫みたいだぞ。  俺としてはちっとも気にしていないのだがな。  それに小さな生き物を見ると、タローを思い出してしまう。  あぁ、タローはお腹いっぱいご飯を食べているだろうか。  俺が提示した宿題は、ちゃんとこなしているだろうか。  父性が刺激されて、余計にイズナに庇護欲が湧いた。  イズナはお腹が減っていて、俺たちは食料を持っているのだから、二人ぼっちのディナーに招待したって構わないと思うのだ。 「リューオ、そんなことないとも。空腹すぎるのも立派な体調不良、袖振り合うも多生の縁じゃないか」 「イタチに振り合う袖ねぇわ」 「イズナだって言ってんだろぃ!」  なのでそう言ったのに、リューオはフンと鼻を鳴らして、すげなくあしらった。  けれど直後に「うるせぇ嘘つきチビ」「ムキーッ!」なんてキャッキャとイズナとじゃれあっている。  お前たち、仲がいいじゃないか。  気が合うと思うぞ。  打ち解けていると言うと再びスパコンと殴られたので、本人に自覚はないらしい。  もう二年近い付き合いになるが、まさかリューオにもツンデレ属性があったとは。帰ったらみんなに教えてあげよう。  友人の新たな一面に納得していると、じゃれあっていた二匹が埓があかないと思ったのか、俺にむかってズズイと詰め寄る。 「ほれ見ろッコイツ元気じゃねぇか! シャルテメェ、小動物だからって判定甘々だけどよォッ? ここは魔界の外ッ! 魔王も戻らねェしタイミング良く現れるもんは全部怪しいに決まってンだよッ! 喋る魔物がいてたまるかッ」 「俺ぁ精霊ですぜ! 魔物なんてケチで下等な生き物と一緒にしねぇでおくんなぁ!」 「ほらぁぁぁぁぁ霊界で怪しい精霊だぞッ!? ゼッテェ近づけていいもんじゃねェ! 自分の巻き込まれ体質舐めてんなよッ」 「こぉんなか弱い小動物を不審者扱いたぁヒデェや……! お里が知れるぜぃっ!」 「お里だァ〜ッ? こちとら世界股にかけてんだよゴラァ!」  キューキューと鳴いてショックを受けるイズナと、警戒すべきだと訴えるリューオ。  激昴しているリューオは、イズナに「嘘泣きすんな!」と吠えている。  間に挟まれる俺だが……リューオは一つ、勘違いをしているな。 「俺は一応不審だと思っているぞ? 聞いて驚くな。俺は罠には人一倍かかってきた。こういうパターンで何度も騙されなれているのだ」 「ドヤることじゃねぇからなそれ」 「……ま、まぁまぁ」  心持ち胸を張って実はちゃんと警戒していたことを説明したが、リューオは胡乱げな視線で突き刺すばかりだ。  う、ちょっとは見直してほしい。  夕焼け小焼けな森の中、出鼻をくじかれてピュウ、と北風が肌をなでる。  いつになったら幼児扱いから脱することができるのやら、だ。  中身は立派な三十六歳児なのだが。

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