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第303話✽
「ふふ、ノロケにするのか。俺もそれ、いいなと思っていた。……誓おう。俺はお前を死んでも愛している。実際にな?」
戦場だなんてすっかり忘れて、俺はのんびりと言葉を紡ぐ。
気分はもう、俺達の部屋で睦みあっているいつもの世界だ。
ああどうしよう。俺はアゼルの腕の中で、安心しきっている。
もう殺伐と虚勢を張ることができない。ずっと抱いていてほしいくらいだ。
アゼルは「実際にってなんだ?」とむくれたが、きっと取り乱してしまうことなのでここでは言えず「後でな」と誤魔化す。
誤魔化されたアゼルは、不満そうに拗ねた。
「後で言えよ。……俺だって、記憶を奪われてももう一度お前を求めたくらい、どうしたって愛してるぜ。まだまだ追い越されてねえ。俺のほうがお前のことを好きだ」
「そうか? たぶん俺のほうが好きだ」
「たぶんじゃ俺のほうが好きだ」
「絶対俺のほうが好きだぞ」
「絶対俺のほうが好きだ!」
大人げない言い合いをして、断固譲らないアゼル。
俺も愛がヘビー級の自覚が有るため、一歩も譲れない白熱の戦いだ。
そんな言い合いをしていると──急に少し遠くから、聞きなれない声が聞こえた。
「──ナイルゴウン。そろそろ私も待ちくたびれたんだが、いつになったら殺してくれるんだ?」
「!」
「あぁ?」
予想外の横槍に驚いて、声のほうに目をやる。
まずい。気配がなかったのと、それどころじゃなくて一人しか見えてなかったから、忘れていた。
アゼルは戦闘中だったんだ。
声の主は、始めアゼルの攻撃で吹き飛ばされた、天使だ。
メンリヴァーと同じ銀の髪に青い瞳。
三対の翼は大きく、傷だらけでボロボロ。
天使は瓦礫に腰掛け、剣を地面に突き刺し顎おきにして、そわそわとアゼルを見ている。律儀に待っていたようだ。
しかし随分のんびりした相手だな。
そしてもしかすると、バカをやっていたのをしっかりと見られていたのか。アゼルの二面性に驚かないのは、珍しい。
戦いを待っている彼には悪いが、今更戦闘再開なんてしないでほしいと、ひっそり思う。
アゼルが怪我をするのも嫌だ。
今とても幸せな気持ちだから、それを塗り替えられるのも辛い。
もはやこの記憶喪失誘拐事件は、俺がいかにアゼルを愛しているかっていうのを命懸けで天界に見せつける事件だなと、認識し直しているからな。
俺のこれまでを考えるに、そうしないとやってられないだろう?
旦那さんを爆破されて当人に忘れられ、爆破の敵も倒せず自分だけ死んで、抵抗むなしく連れ去られた。
その後全てのきっかけは俺という弱い番の存在があったせいだって計画を知りながら、めげずに自力で逃げ出してきたんだ。
とても頑張ったぞ、俺は。
誰か褒めてほしい。
めいいっぱい労ってほしい。本当に疲れた。
頼むからここから先は血なまぐさいのは勘弁してくれ。俺はもう命も手足も落としたくないんだ。もう離れたくない。
声をかけてきた天使の挙動を、祈るような気持ちで注意する。
すぐに戦えるよう、剣を取り出しておこうかと逡巡して気を引き締めて構えた。
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