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第564話(sideキャット)
口では悪態を吐く。
俺じゃなくても務まる仕事だ、俺は魔王に向いていない。
魔王をやめようと思った回数なんて、大ムカデの足の数より多い、なんて。
だけど結局あの人はずっと魔王様だ。
言葉ではうまく言えないから行動で不器用に伝えることしかできない人。
シャル様がいて、そしてタロー様がいたからこそ、俺もようやく自分の主のむき出しがわかった気がします。
愛されたい魔王様は、自分を愛してくれる魔王城の住民を……一生懸命に、愛しているんですね。
「……幹部は、魔王様に近い人です。裏切ったり噓を吐く人ではダメで、魔王様の不利になることも当然しません。俺は副官……魔王城の皆様を危険にさらすことは、しませんよ」
「賢明だ」
止まっていたように感じた走馬灯のような時が、ゆっくりと動き出した。
当然とでも言いたげなジファー様の声。
肩に置かれたタロー様の手は、冷たい。
そう。俺は誇り高き空軍のナンバーツー。
魔王城の幹部たちに憧れ、その片隅にいる自分を未熟者だとわかっていて、それでも選ばれたことを嬉しく思っていた。
そしてどうしてその役目に選ばれたのかわからなかったことが、今ならわかる。
魔王様の幹部は、みんな力もクセも強ければ、我が強いのだ。
魔王様には勝てないとわかっていても歯に衣着せない物言いをするし、複雑なことはしない。
単純明快。自分が決めたことが誰になにを言われようが不動の正義。
それに気づけば、自分が選ばれた理由も、納得がいってしまう。
人の本心なんてどれだけ考えてもわからない不器用な貴方が選んだ、てんでバラバラな幹部たちの、たった一つの共通点。
「だが……俺は幹部ではない」
「ッ!?」
「え……っ」
それは──自分に嘘を吐かない、愚直な正直者。
「今の俺はただの臨時シッター、キャレイナル・アッサディレイアだッ! 子どもの就寝時間に不法侵入など、万死に値するッ! このクソ虫がァッ!」
ゴオォッ! と俺の体から突風が吹き荒れ、瞬きする間に、俺の体は巨大な鷲頭獅子の姿に変化した。
それと同時に風の斬撃を飛ばし、ジファー様を攻撃する。
魔法がぶつかった場所で盛大な爆破音が響き、辺りが砂ぼこりでいっぱいになった。
『風ッ! 舞えッ! 狂えッ! 渦巻けッ! この俺の任務の邪魔をする輩なぞ、細切れにしてくれるわ!』
タロー様を背に乗せたまま「ピュロロロロッ!」と甲高い鳴き声を上げる。
小型の竜巻が三つ現れ、周囲を蛇行して部屋中に散らばった。
全体攻撃の風圧衝撃破。ランダムに乱舞する風の斬撃。
手ごたえはあったが、どこに逃げ出していても追撃できるように魔法を放つ。
全身を包む透明な風の防壁が、タロー様ごと俺を包んでいた。
これもグリフォール魔族の種族固有スキル。
魔力探知は多くのグリフォール魔族に備わっているものだが、風の防壁スキルは俺が本家の血筋だからだ。
魔力を消費せずに発動できるこの防壁により風圧で近づけず、触れれば人間の皮膚ならズタズタに切り裂かれるだろう。
(クッ……! それもこの空間支配の中じゃ、弱まってるじゃないか、クソ……ッ!)
カチカチと嘴をかみ合わせて威嚇音を鳴らす。
空軍である俺は飛べない場所での戦闘が苦手だ。こういう室内での戦いは、陸軍の仕事。
訓練はしているけれど、それは自分たちが侵入者側である制圧戦だ。
どうにか壁を壊して外に出たいが、魔法を使っていてもビクともしない。
作り出した空間の部屋である以上、偽物。
ならば隙間や解れがあると思うけれど、魔力の多い魔族にありがちな弊害だが、繊細で地道な魔法が不向きなのだ。
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