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第566話(sideキャット)

 ギュルンッ! と布状の闇が巻き付き、ジファー様の傍に繭が形成される。 『させなッ、』  咄嗟に身を捻り鋭い爪の付いた前足を伸ばそうとしたが、繭を盾にされ、動きがにぶった。 (──っタロー様に攻撃するわけにはいかない……!)  その隙を逃す右王腕ではない。  火傷を負った翼に蹴りを入れられ、嘴の隙間から「ピィッ!」と甲高い悲鳴が上がる。  痛い。熱い。苦しい。それでも藻掻く。  支配空間では自己治癒能力すら劣るのか、俺の傷は僅かずつでしか回復していなかった。  能力低下のぶん威力を持たせるために重ねた強力な攻撃で、魔力もずいぶんなくなっている。 「しぶとすぎるぞ。ちょっと嫌いだ、お前。しかし、正義は勝つ。……まったく魔族は無関係なくせに、うちの事情に出しゃばるなんて、無礼な種族だ」 『クソ、が……』  満身創痍の俺の巨体が滑り、ズズンッ、と床に倒れ伏すと、彼の手に、持ち手も穂先も真っ青な長槍が現れた。  苛立った様子で俺の悪態に舌打ちし、俺に向かって振りかぶる。  形態変化を保てなくなった体はジワリと溶けて元の人型に戻ってしまった。  焦げた翼と、所々汚れて裂け、血の付いたグレーの軍服は戻らないが。  それでも中身は変わっていない。  ピシッと、尻尾を振った。  このくらいじゃ上位魔族は死なないのだ。魔力が尽きたら死ぬだろうが、俺は諦めていない。  例えその長槍に貫かれて床に縫い止められ、この空間に取り残されても……体を回復して、首だけになっても追いかけてやる。 「お前を残していくとめんどうそうだ。仕方ないが、殺しておこう」  ジファー様は睨みつける俺を見下ろし、タロー様を包んだ繭をゆっくりと闇の中にしまいながら、腕を振り下ろす。  死を覚悟した刹那── 「それはちょっと困りますね?」 「コマルネ?」 「ッ!?」  ──冷淡で抑揚のない、けれど大好きな聞き知った声が聞こえた。  そして瞬きするより短い間。  ジファー様に向かって黒い塊が高速でぶつかる。  そのまま闇に呑み込まれつつあったタロー様の繭と共に、塊は霊法の中に消えていった。あれはそう、黒いコウモリ。あの人の分体。 「このッ誰、」 「氷、這え。凍てつけ」 「なァ……ッ!?」  正体を問いかけるセリフすら言わせず淡々と魔法を放つ侵入者に、ジファー様は槍を引っ込め素早く身を翻し、床の中へ沈んだ。  途端、彼がいた場所がビシビシッ、と地割れの速度で凍てつく。 (クソッ、逃げられた……ッ!)  俺の命が救われた代わりにタロー様ごと逃がしてしまった敵に、一瞬グルルッ、と唸り声を上げる。  けれどなぜか──床に倒れていた俺の体が、ふわりと浮き上がった。 「え、え……!? っ、はっ……!?」  ボロボロの俺は気がついたら体温が低く冷たいがしっかりとした腕に抱きかかえられ、その腕の主が誰かわかっていて、言葉を失う。 「うるさいですよ。ケガしてるのが背中なんですから、仕方ないだろ。別に好きでやってるんじゃない」  分体を目で生成したのか片目のない彼──ゼオ様は窮地にも関わらずいつも通りにそう言って、凍てついた床の上を浮遊した。 (いや、いやいやいや。なんで貴方が、というか、なんでお姫様抱っこですか──!?)

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