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第602話(sideアマダ)
健気で無自覚で鈍感でお人好し。
そんなアマダの性格の、端に隠していた裏側。
『ごめんなさい。……だってアマダは私のこと、愛してないの……。心から貴方を愛しているから、私はそれを知って、もう笑っていられない』
『アマダ、君は俺になにも言わない。君の気持ちをちゃんとわかってあげたいけれど、俺の気持ちを、君はわかろうとしない……ごめんね。君の言葉が信じられないんだ』
長く付き合うほど、性別や年齢は関係なく、アマダを愛していると言った恋人たちは離れていった。
ならば、彼らの愛は偽物だ。
どうせ本当に愛してはいなかった。
時間が経てば飽きられる。
つまり、自分は愛されていないし、愛されない。嘘つきの裏切り者ばかり。
だから泣いていた。
そんな時にアマダの話を聞いて、笑って救った魔王。これが本物だ。唯一無二の愛だった。
──唯一無二の本物を手に入れなければ、アマダはこの先ずっと一人じゃないか。
思い切り叫んだ。
魔王へ届くように、胸打たれてこちらを見てくれるように、本気で訴えたのだ。
だが魔王は顎に添えていた手を離し、腰に引っ掛け、溜息を吐く。
ビクッ、と体が震えた。
魔王の視線とアマダの視線が交わる。
「大前提として、俺が、俺自身が、自分でシャルを唯一無二と愛してんだぜ? シャルがどん底でも俺と笑うって言ったなら、俺はどん底でもシャルを笑わせねぇと俺じゃねぇんだよ」
「う……ッ」
「俺との間には記憶しか遺せない。違う。シャルは唯一遺せるものを俺に全て捧げるって言ってんだ。ちゃんと見てろって言っただろうが。シャルの愛の結果がこれだって、お前はまだわからねぇのか?」
アマダの気持ちを全て黙って聞いた魔王は、それを全て胸に入れた上で、なおも問いかけた。
その瞳がなにも変わっていないまま自分を見つめ続けていることを理解する。
(シャルの愛の結果……? 世界の侵入者で、たまたまアゼリディアスを射止めて、守られるだけの……、……シャルの愛……が……?)
そしてアマダはふと気がついた。
隙間から飛び出した神霊様の腕により、神扉の鍵が壊れそうな悲鳴を上げている。
精霊族は阿鼻叫喚だ。
魔族だってその精霊族を相手取るのに、力を使っている。
セファーが戦っている。人間の勇者と戦っている。アマダを助けに行こうとして懸命に戦っている。
精霊族からジズを守るために竜の背で青ざめているシャルも、逃げ回るガドも。
精霊以外には目に見えない精霊族の能力の位置をガドに教えるジズも、みんなが戦っている。
仲間も、大嫌いな者も、戦っている。
その中で戦っていないのは、精霊王である自分と、魔王だけだ。
魔王はなにか役目があるような様子で、ライゼンと話していた。
なのに全てを差し置いて、シャルたちのそばへ行くよりも、アマダと話をすることを優先させているのだ。
魔王とその者たちと自分の差──とは。
「……っあ、……」
それに気がついた時、アマダは魔王から目を逸らした。
急に自分がこの場で一番愚かな生き物であるような気がしたからだ。
芋ずる式に意味がわからなかったことに理由の辻褄が、合い始めている。
本来なら、精霊族を制圧したいなら城に招待されて中枢にやってきた時点で魔王が暴れればよかった。
精霊族は天族のように防御力に優れているわけではない。
精霊族は特殊な戦い方をするだけで、平均的なのだ。魔王一人でも半壊する。
それをしなかった。
演技をした。切りかからない。精霊族を殺すこともしない。
裏切りたかったから? そんなこと意味はないのに? 儀式を台無しにしたかったのか?
どうして? ジズが欲しいなら城で守っていたほうがいいのに。なぜここに来た?
──コトン、と。
アマダの心に空いた穴を、なくしたカタチが埋めた。
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