605 / 615

後話 まるっと収まる精霊王

 全ての戦いが終わり、星空の下で俺はトン、と広場に降り立つ。  そこで待ち構えていたアマダに、ゆっくりと歩み寄る。  晴れやかな笑みを浮かべて、アマダは眉尻を下げつつも、「シャル」と声をかけ、深く頭を下げた。 「このたびの騒動に関しての魔界の助力に、心から感謝する。そして……俺が招いたにもかかわらず、兄の招待客であるシャルと護衛の彼を不法侵入者扱いしたこと。セファーの嫌がらせや洗脳、無知をさらして知らん振りをしていたこと。魔界に不法侵入したジファーの暴挙。深く、謝罪する」  アマダは「俺のために動く二人を当然のように気にもとめず、気づかなかった俺の原罪だ」と悲痛に震えながら謝る。  俺の家族はみんな、無自覚と半端を晒したアマダに対して、とても怒っていた。  俺とて、アゼルを洗脳しようとしたセファーと、キャットを傷つけたジファーは、許せない。  けれど実のところ、今でも俺は、アマダに悪い感情を持っていないのだ。  もちろん、セファーとジファーにも。  怒ってはいるけどな? 天界の天使の時のように、憎んではいない。  なぜかというと……そうだな。  タローという娘をもって、俺は幼くとも大事な理由があって動くことや、時に失敗することや、叱られることで、人が成長することを深く理解した。  当たり前にあったことが尊いものだと、気がつくにはきっかけがいることを知っている。  誰を敵に回しても幸せになってほしい相手に恋をする熱も、知っている。  誰かがめいいっぱい叱って、気づかせて、そして謝罪があれば許す。  生まれつき完璧な人はいないのだ。  変わっていけばいい。俺が俺になったように。  まぁ、わかっていてもシンプルにムカつくという理由でゲンコツを食らわせる仲間もいるわけだが……それは割愛。 「ふっ」 「っ」  少し吹き出す。  アマダは俺のアゼルモノマネモードが本性だと思っているのか、ビクッ、と肩を震わせた。  それでも頭を下げて、重ねて謝罪する。  そうだな。  王様の仕事は、責任を取ること。  部下を放逐していたアマダは王様であって王様ではなかっただろう。  家族のために動き、部下に指示を出して、自分も作戦を行い、一番の難関である神霊の再封印を行ったアゼル。  アゼルと並ぶために王になったアマダは、本当の意味で並んではいなかった。  しかしセファーからアマダが自分を好きだと聞かされ、洗脳されかけてそれを知ったアゼルは、その愛に誠意を返したわけだ。  気づきを得たアマダは、きっとこれから、本物の王様になる。  顔を上げるように声をかけると、アマダはオドオドと俺を伺いながら、顔を上げた。  本質的に怒られたり嫌われたりするのがすこぶる嫌な、子どもっぽいところは変わらないみたいだ。  タローとちっとも変わらないお子様に見えて、思わず笑ってしまった。 「っ? えと、その……あ、アゼリディアスとシャルが神霊様を再封印してくれている間に、俺はライゼンから、全ての経緯(いきさつ)を聞かせてもらった」 「うん。そうか。じゃあ、これで許す」 「ぅあっ」  先生を前にお説教されるのがわかっている生徒のようなアマダの額に、ピンッとデコピンをおみまい。  アマダは額を押さえて、ぽかんとした。  ほらな? 騒動なんて終わってしまえば、なんだってよくなってしまうんだ。  誰も欠けずにいられたなら、それでいい。  そう言って笑って許すと重ねじっと見つめると、アマダはややあって、同じように笑ってくれた。

ともだちにシェアしよう!